妄想最強スレ最弱ロワ






(ここはどこ?あたし、どうしてこんなところに…)
心臓は戸惑っていた。
彼女は再就職先を探して心臓移植を待つ患者が入院する病院にいっていたはずだ。
それなのに、気がつくとどことも知れない薄暗い部屋にいた。
周りを見回すと、そこには何人かの人やそれ以外の存在の姿が見える。
(あっ、あれはテレビさんに、扇風機ちゃん、胃腸君まで。ああ、そしてあそこにいるのは…)
見る影もなく衰え、地べたにねそべっているその男は、確かに彼女の元主人であった。

どうしてここにいるのかわからないのは心臓だけではないらしく、みな一様に戸惑っていた。
そんな中、戸惑う様子もなく薄笑いを浮かべる少年が一人。
「やあ。君たちにはこれから殺し合いをしてもらうよ」
いきなりとんでもない事を言う少年。
もちろんそれで納得する者がいるはずもなく、すぐに誰何や反発の声が上がる。
「僕は叢雲のノゾム。君たちは聖なる殺し合いの参加者として選ばれたんだ。もちろん、報酬は用意してある。
 最後の一人になった者はナル・ハイエターナルとし、知られざる最強の永遠神剣「厨二」を上げよう。
 「厨二」さえあれば、君たちでも、妄想スレで永劫にトップに君臨し続けられるほどの最強の力を得られる。
 強さが全てである最強スレ世界において底辺を這いずっている君たちには破格の報酬だと思うよ」

「ふざけるな!私が底辺だと!」
底辺と言われてその場にいた者が例外なく激昂し、何人もの男たちが少年に掴みかかろうとする。
しかし、そんな状況でもノゾムと名乗った少年の薄笑いは消えない。
「そうだね。確かに、この中には大会のコンセプトに合わない人が何人もいる。…ちょっと消えてもらおうかな」
その言葉と共に少年が手に持ったスイッチを押すと、まともに動ける人間全ての首が爆発して頭が吹き飛んだ。

(ああ…)
いきなりの惨劇に呆然としていた心臓は、首をなくした男の一人が自分に向かって倒れこんでくるのに気付いた。
(ダメ、あたしに何かあったら…)
そもそも人間は、そしてその臓器たちも、心臓が常に新鮮な血液を送り続けているからこそ生きていられるのだ。
だから、本当なら心臓をクビにした人間や、心臓と別れた臓器が生きていられるはずがない。
にもかかわらず彼らが生きているのは、心臓がクビになった後もひそかに血液の供給を続けていたからこそ。
ケンカ別れをしても、彼女は本心では、わがままな主人も欲張りな胃腸も大好きだったのだから。
「いや、助けて!」
主人や胃腸のためにも死にたくない、そう思っても彼女は自力では動けず、彼女を助け得る参加者ももういない。

グチャッ
会社員の死体の下敷きになった心臓がつぶれ、直後に胃腸と寝たきりの男がうめき声を上げて動かなくなる。
「おやおや、少し参加者が減ってしまったね。まあ、それだけ君たちが勝つ確率が上がったんだからいいよね?」
そう言ってノゾムは優勝候補筆頭である「社会」のアリたちに目をやる。
「……」
しかし、返事はない。それもそのはず、彼らは既に息絶えていた。
爆発で吹き飛ばされた首が彼らの上に落ち、潰したのだ。女王も、働きアリも、革命者もすべて平等に。
「あれ?」
次にノゾムが「小部屋」の名刺たちを見ると、破裂した心臓から流れ出た大量の血液で溺れ死んでいた。
「ちょっと、君たち簡単に死にすぎ!」
興奮したノゾムが足踏みすると、ブチッという音がした。
ノゾムが恐る恐る足を上げると、そこには踏みつぶされた「菌劇場」の面々の姿が…
まずいことが起きている。エターナル的な勘でそれを悟ったノゾムは、慌てて他の参加者を確認する。

「もやしもん内おまけマンガ」…大半が表皮常在菌である彼らは、沢木に寄生する形で参加していた。
当然、その沢木が爆死なんて派手な死に方をして無事ですむはずもなく、全滅。
「ポケット宇宙」…ポケットにあめ玉や消しゴムを入れた人が爆死した時にポケットを下にして倒れたので…
「フラックス」…爆発の余波による衝撃だけで余裕で全滅。
「フェッセンデンの宇宙」…寿命が以上に短い彼らは、ノゾムが話し始める前にとっくに死んでました。
「時空争奪」…以下同文。
ノゾムは縋るように「労使関係」の扇風機とテレビを見るが、彼らは何の反応も示さない。
電化製品である彼らは、コンセントもないこの部屋に連れてこられた時点で物言わぬ器物になっていたのだ。
「えーと…」

【最強スレ最弱バトルロワイアル――完】



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