妄想1レスロワ3
「殺し合い……ですか」
金色の髪をバナナのように整えたSランク超能力者『デス・マス』は誰も居ないビルの屋上でポツリと呟いた。
先ほどの話ではこれから行われることは『殺し合い』であり、一人になるまで戦い続けなければいけないらしい。
デス・マスは特に感慨も抱かずに目の前に広がる島全域の風景を眺めていた。
「……悪くはないですね」
あまり広い島ではなく、歩いていれば数分で人と出会うだろう。
そして、他の殺し合いに連れて来られた参加者との遭遇した時を想像すると自然と口元がにやついてしまう。
デスマスの所属する組織であるジャジメントのお遊びかとも一瞬考えたが、世界に四人しか居ないデスマスを危険に晒すとは考えづらい。
自分がここに来る前は車で移動中だった。
そこから白い光のようなものに包まれ、気づけば銀色の首輪を巻いて殺し合いの説明を受けていた。
デスマスは離れた場所から人間をテレポートさせることを可能とする超能力や機械の存在は知らない。
それはオーバーテクノロジーで知られているジャジメントの敵、オオガミグループも持っていないはずだ。
「殺し合い、そんな異常な場所でどれだけの人間が私に美しい姿を見せてくれるのでしょうか……」
今にも笑い出しそうなほどの歓喜。
生に執着する意味を見出せなかったデスマスに生きる意味を教えた殺し合いで生に執着し続けた旧式強化人間。
人は生きようと精一杯もがくから美しい、それに造形としての美醜は何の意味も持たない。
「では、早速始めますか……」
デスマスがはやる気持ちを抑えながら取り出したのは銃でもナイフでもない。
普通の人間ならそれは外れでしかないが、デスマスの能力を考えればこれ以上とない支給品。
それは、拡声器である。
『えー、皆さん始めまして。私はフランシス・ミネイリ、『デス・マス』と名乗れば分かる人が居るかも知れませんね。
私が皆さんに伝えたいことは一つ、殺し合いに乗らないで欲しいということです。
殺し合い、これは非常に残忍なものです。人を殺す、こんな行動が許されるわけがありません!』
自分で聞いていても笑ってしまいそうなほど甘ったるい言葉。
しかし、これならば殺し合いに乗るつもりのない人間は聞こうという気分にはなったはずだ。
『私はこの殺し合いから脱出しようと思います。そのためにはまずこの首輪です。
皆さんで首輪を外せるように努力し! <<外す方法が分かればそれを即座に実行しましょう!>>
そして殺し合いに残念ながら乗ってしまった方!
私、金色の髪をしたこの声の主、デスマスはいつでも貴方たちを迎え撃ちましょう。
そのときは<<遠慮なく私を殺してしまいなさい!>>』
これで良い、とデスマスは笑みを深くして拡声器の。
デスマスの能力、それは『デスマスの言葉の反対の意味の行動を取ってしまう』というものだ。
つまり、<<私を殺せ!>>と言えばデスマスを殺せなくなり、<<起きていてください>>と言えば眠ってしまうのだ。
これだけを聞けば使い勝手の良い能力に聞こえるが、様々な制約も存在する。
まず、否定形の命令では意味がないということ。<<私を見逃せ>>は有効だが、<<私を殺すな!>>では意味がない。
そして、気を失えばその効果は無くなる。例えば先ほどの命令も気絶したり寝てしまったりすれば解除されてしまう。
最後の一つは、命令を守った上でならどんな行動も出来るということだ。
<<私を攻撃してください>>と言ってもデスマスの『服』に向かっては攻撃できる、ということだ。
だが、そんな様々な制約を踏まえてもデスマスの能力は反則といっても良いほどの強さだ。
「さて、腕慣らしは終わりましたし……一先ずは消極的な人間と接触しましょうか」
殺し合いと言っても全員が乗るとは限らない。まずはその殺し合いに乗らなかった人間と行動しようとデスマスは考えた。
その理由としては、人を殺す以外に道がなくなった時の行動が見たいから、である。
「ミス浜野のような、素敵な足掻きを見れるよう期待しておきますかね」
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