妄想1レスロワ2






「なんと勇ましき機体だ……益荒男、その名を背負うにふさわしい」

眼前に立つ巨人を見上げ、恍惚を抑えきれない様子で呟く男が一人。
その名はトレーズ・クシュリナーダ。地球と宇宙における最後の戦争で、世界国家を率いた男だ。

「しかし……神は残酷なものだ。既に御許へ召された身であるこの私を棺桶から引っ張り出すなど」

そう。彼は彼自身が最大の理解者と評したガンダムパイロット、張五飛に討たれた――はずだった。
しかし気がつけば生きてここにいる。最後の一人になるまで殺し合う、この舞台に。
勝ち残れば望みが叶うなどと言うが、トレーズはその褒賞に何の興味もなかった。既にやるべきことは全てやったのだから。
だが、その言葉を信じ戦う道を選ぶ者もいるだろう。そんな輩に対しトレーズがすべきこと、それは。

「闘争とは人が己の意志で行うからこそ尊いのだ。誰かに命じられるがままに戦うのでは、それは人形と同義……。
 なればこそ、断じて認めるわけにはいかないな。今一度、私はこの手に剣を取ろう」

巨人――東洋の武者を模した、トレーズの知らないモビルスーツ。
携える武器はその手に握る太刀以外にない。普通の神経をしているならハズレを引いた――そう思うだろう。
しかしトレーズは我が意を得たりとばかりに頷き、そのコクピットへ乗り込む。
武装の有無は問題ではない。この機体に込められた意志そのものが、トレーズをして共感させる。

「無粋な銃など必要ではない。そう、純粋な決闘において必要なものは一振りの剣のみ――」

黎明の空へ、鎧武者が飛び立つ。その身を駆るは騎士道を掲げる男。
通信回線をオープンに。未だ見ぬ敵手、そして主催者へと――

「私の名はトレーズ・クシュリナーダ。この声が届いたならば聞きたまえ。礼節を忘れ、我欲を満たすためだけに戦う者たちよ。
 己が正義を信じ、勝者たらんとするなら――かかって来るがいい! この私……ミスター・キシドーとマスラオが相手となろう!」

高らかに宣言する。
そして、男は戦場へと舞い戻る。自らを敗者とするため。そして再び、己の意志による崇高な戦いの果てに討たれるために。
武士道と騎士道――二つの道を、マスラオが駆け抜ける。勝利を得るためではなく、敗北を夢見て。



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