お題・自分の出したいマイナーキャラロワ2







乾いた銃声が、夕暮れの荒野に響き渡る。
銃弾と薬莢を吐き出すのは、リボルバータイプのARMだ。
その銃を右手に構え、白髪の男が一人悠然と歩いている。男は心底愉快そうに口角を吊り上げ、左手で眼鏡を支えていた。
「殺し合い、殺し合いですよ。楽しいですねぇ……。楽し過ぎて眼鏡がずり落ちそうです」
男――ジュデッカの声は震えている。
しかしそれは、殺し合いに巻き込まれた恐怖や命を握られた焦りとは異なる種類の震えだ。
歓喜、愉悦、恍惚。
命のやり取りとは似つかわしくない感情が次々と喚起され、ジュデッカを震えさせる。
満たされぬ欲望が胸の奥から迸ってくる。心が渇望し、身体に命じてくる。
砕ける肉が見たい。血の匂いを嗅ぎたい。恐怖と痛みに喘ぎ泣き喚く声が聴きたい。
溢れる命を砕きたい。輝く希望を踏み躙りたい。無残に残虐に一方的に、人間をぶち壊したい。
砂山を蹂躙するように、雑草を手折るように、虫けらを潰すように。
傷つけ絶望を与え殺したくて、堪らない。
「貴方も、そう思いませんか?」
銃口を向けて、声を投げかける。
その先にいるのは、紫色の衣服を纏った少女だ。彼女の肩にはジュデッカが撃ち込んだ弾丸が埋まっている。
髪を編んだその少女は、肩から血を流しながらも、強い輝きを湛えた瞳をジュデッカへと向けてくる。
それは、反抗の意志を強く物語る輝きだ。
銃撃を受けたというのに悲鳴一つ上げず、挙句の果てに抗おうとするその様に、ジュデッカは笑みを消し眉根を寄せた。


「馬鹿に、しないで」
ジュデッカに答える少女――ヴァージニア・マックスウェルの声は震えていない。
恐怖も焦燥も歓喜も愉悦も宿らない声で、彼女は続ける。
「許さない。許せない……!」
あるのは、怒り。
しかし決して、自身を傷つけられたことに対する激情ではない。
「わたしの正義が、あなたを認めないと言っているッ!」
ジュデッカの思考に、嗜好に向けた憤怒を叩きつける。
それは抗いの意志であり、同時に。
絶対的で万人のための正義など存在しないと知ったヴァージニアが信じる、彼女自身の正義に殉じた叫びだ。
「――そうですか、残念です。では、その正義とやらを壊して差し上げましょう。
 精々いい声で喚いてくださいねッ!」
ヴァージニアの正義を、その身体ごと撃ち抜こうと狙いを定めるジュデッカ。
その指が引鉄を引くより、数秒早く。

――ヴァージニアはポーチから銃を引き抜き、躊躇わずに発砲した。



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