妄想リピーターロワ1話
────どうなってるの、コレ?
正直何も言えなかった。
目が覚めると、私は何十人も人間が集められた立方体の部屋に居る。
部屋の中には等間隔で椅子と机が配置され、前方には教卓……。
壁と言う壁が黒く塗りつぶされている事と、出口らしきものが全く見当たらないのを除けば、学校の教室に見えない事も無いかもしれない。
私は隣で突っ伏している6/に声をかける。
「6/……ねえ6/!」
「寝かしておく事だなあ、かがみさんよ」
だが返事をしたのは、隣に居る見知らぬメガネの男だった。
誰……? てか何で私の名前を知ってるんだ?
「チッ……やっぱ時系列が違うようだな……>>やおい」
「見た感じ、俺と6/が交友を深めていた時につれて来られたらしいな」
「>>やおい! アンタもココに来てたの!」
◆
>>やおいと、692の話を総合するとこうだ……。
まず私達の世界以外にも並行した世界がある、いわゆるパラレルワールドと言うヤツだ。
そこのいくつかでも、平行世界の人間達を集めて殺し合いを行っていた。
そして今回は、一度その殺し合いを経験している、あるいはした人間を集めた。
…………何だかややこしい話だけど……。
「……信じられないわね」
「『話が飛びぬけすぎている』からか……? だがオレとしちゃあ、日本全国で殺し合いって時点で
十分ぶっ飛んでいると思うがね」
「…………」
「常識は捨てるんだなかがみさんよお? さもなきゃ、元の世界じゃあ生き延びれねえぜ」
692の言う通りだ……。
実際、まだ目を覚ましていない人間の中には『私』が居て、つかさが二人も……。
この状況でよく理性を保っていられるなと思う。
「同じ殺し合いの経験を二回……こりゃあ川田を笑っちゃあいけねえな」
「と、とりあえず始まった時のために集合場所を──」
「マヌケ」
>>やおいの申し出を一言で遮ると、692は親指で前の方を示す。
そこには赤髪の大男が、この状況にも関わらず一言も発さずに腕を組んでいる……。
そのすぐ隣には、赤いコートを着た長髪の男……。
赤髪の方がコッチを振り向いて、耳まで届きそうなほど口を開いて笑みを見せる。
明らかに相談している私達をバカにしている感じだ……。
「………………!!」
「止せ692」
「どけ……」
「ここじゃカオスロワ補正はかかっていない。返り討ちが関の山だ」
言っている事は良く分からないが、おそらく>>やおいの言うとおりなのか……。
692は渋々と席に戻った。
「いいか二人とも……、オレはあそこの連中を知っているが。ここで集合場所を決めたりしてみろ。
『筆談』『モールス信号』、『アイコンタクト』……このどれかでも、間違い無くヤツラにそこで待ち伏せされて全滅だぜ……。
ここに集められたのは、戦い馴れたヤツも勿論、長かれ短かれゲームを経験している」
「そんな……」
「じゃあ、仕方ない……ゲームの中で会える事を」
「誰が殺し合いの最中に会うって言ったよ」
どういう事だろう?
>>やおいと692が二人で笑いあってる。
「やっと来たか……さっさとケリをつけよう。ギルガメが待ってるしな」
「足引っ張るんじゃあねえぜ……」
前を見ると、仮面をかぶったマントの男が両手を掲げていた。
「ワハハハ、目覚めの気分はどうかな生贄の諸……オイ貴様ら! 何を立ちあがっとるんだ、座れ!!」
「うん」「それ無理」
「ね、ねえ二人とも────」
次の瞬間、692は突然透明なものを纏う。冷気が漂ってくるから氷だろうか?
そして>>やおいは腕を掲げて真っ直ぐと男に突っ込んでいく。
「わ、わわ」
仮面の男は慌ててポケットに手を突っ込んで、何か黒い物を取り出した。
──拳銃だ!
「し、死しししねええええ!」
「ジャンボガンがコッチに向かって飛んで来る、でもそんなの関係ねえ!」
「『ジェントリー・ウィープス』」
二人が叫ぶのと、拳銃から閃光が走るのは同時だった。
次の瞬間、仮面の男は吹き飛ぶようにして倒れる。
「が……ぇ…………ぇぇ」
背後の黒板には血飛沫。
そして692と>>やおいの二人は崩れ落ちた仮面の男の腕を掴んで立ち上がらせる。
「こいつはギガゾンビか……良かったな>>やおい、男だぜ?」
「ふざけてる場合じゃねえだろ」
「よし……、戻ったらとっとと決着だ。数ヶ月放置されてたしな」
「お前が動かし辛いキャラしてるからだろーが。カオスロワで熱血展開はムズいんだよ」
そう言って笑い会う二人。
終わったのだろうか?
あのギガゾンビが今回の事を企てたのは間違い無い……、でも、ホントにコレで終わったの?
さっきの大男を見ると……どうしてだろう? 楽しみを潰されたのに不適に笑ってる。
ボン、
と言う破裂音。
もう一度、>>やおい達の方を見ると……。
「────!」
そこには、首がら上が消し飛んだ692……。
「>>やおい、逃げ───」
「な!! そ、そんなの関係ね」
仮面の男から伸びた腕が、>>やおいの腹をぶち抜いた。
「……え?」
また、何も分からなくなった。
何時の間にか、そこにはギガゾンビでは無く黒人の神父と、人間の『ような物』が一体。
ギガゾンビは足を押さえて悶えていた。
「痛い痛い痛い! プッチ、早く、早く終わらせてワシを」
「しばらく待っていてください……ギガゾンビ。アナタはどう言った過程を辿っても、
まだ『ここで終わる』と言う結末には無い……これは『運命』なんですから」
「彼らもまた……ここで反骨精神を見せなくても、ここで終焉を迎えていただろう……。
運命とは、そういうもの。たとえ、事象を変える能力を持とうが、それは乗り越えられない……」
亜人が腕を振るうと、そのまま>>やおいが私の所まで飛んできた。
「ぎ……」
──まだ息がある!
「>>やおい! ねえ、しっかり──」
「ギル……」
それだけ言って、>>やおいは血を吐いた。
「ガメ……」
もう動かない。
「>>やおい……」
「君……柊かがみと言ったか……。安心して欲しい、彼の死は決して無駄などでは無い」
「何言って」
「君を含め、皆は今試練を迎えている……それは天国のための試練だ。>>やおいはそのための殉職者。
誇ってやるべきのな……。人は自分のためだけの試練では無く、誰かの為に試練を受けねばならない……、
そしてコレは全人類の為の試練となる……」
黒人神父の言う事は、全て耳に入らなかった。
殉職者? 何を言っているの……? こんな訳の分からない事に巻き込まれて……それであんた達に殺されて……。
だが、神父の言葉はもう私には向けられていなかった。
「君たちはこれから、愛すべき人を失い狂うかもしれない。
あるいは殺し合いに乗って無残に死ぬのかもしれない。
最後まで自分の正義を通せる形もあるだろう」
「いいから早く治療してくれ! 死んでしまうう!!」
だが、何一つとしてそれは恥では無い……それは全て、何かを生み出す。
それは何かのためとなる……間違い無く、それは人の成長以上に価値のある物となる……」
「痛いいいい、早くなんとかしてえええ!!」
「これから行われる事のルールは、君たちが前に経験したとおりだ……首輪を前と同じ手段で外したければそうするといい。
前知識は何も与えない、それでは不純物が混ざってしまう……私が運命に介入した事となるから」
「もういいだろ、早く治してくれ!」
「それでは、バトルロワイアルを開始する。君たち『のご加護があらん事……』」
そして、私の意識は遠くなった。
◆
「あーはは、ひゃーひゃひゃひゃひゃひゃーーーー!! 中々面白いショーだったよ!!
まさかいきなりボコボコにされるなんてさーーー、
僕も近くで見たかったな!」
「黙れ、この小童が!」
「前から全然進歩してないんじゃないの? むしろボケて退化しちゃったのかなあギガゾンビさん」
足に包帯を巻きつけるギガゾンビを見て、心底可笑しそうに笑う長髪の男。
その整った顔立ちからは想像も付かない幼児性溢れる台詞。
その言葉の主はクンネカムン右将軍、ハウエンクアだった。
「…………」
「どうしたんだいヒエン、さっきからしょんぼりしちゃってさあ」
「いや、大した事では無い……」
それっきりもう一度俯いてしまうヒエン。
いくら大儀のためとは言え、やはり罪の無い人間をもう一度殺し合いをさせるのには気が進まなかった……。
狭い部屋に、もう一人車椅子の男が現れた。
「やあ、みんな集まってるね」
「アラキか……」
「ああ、ヒエン君。そういえば挨拶がまだだったね、後で改めてよろしくたのむよ。
うん、ギガゾンビさんも結構大変だったみたいだね。怪我はしっかり治さなきゃダメだよ。
それとハウエンクア君、安西さんからの伝言だけど、第一回の放送は君に決まったよ」
「え、それホントかい!?」
「うん、だから今のうち台詞を考えといてね。後で放送室に案内するよ」
そう言って、部屋を出て行く二人。
「本当に……これで良いのだろうか……?」
ヒエンの呟きが誰かの耳に入る事は無かった。
一方、主催者の一人小田信長は風邪で死んだ
【小田信長@カオスロワ 死亡確認】
【692@カオスロワ 死亡確認】
【>>やおい@カオスロワ 死亡確認】
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