妄想残機ロワ






「くそっ……何故だ、何故倒れねぇっ!?」
ゴエモンの放った小判が波動を纏いながら、ルイージの心臓をぶち抜いた。
しかしその傷は瞬時に再生し、ルイージロケットでゴエモンに向けて突っ込んでくる。
そう、これがこの殺し合いのルール。例え生命活動を停止したとしても、
彼らの持つ「残機」を全て失うまで、死ぬことはない。
「あの弾幕結界をあれだけ食らって、なんで倒れないんでぃっ!?
 てめぇ、一体どれだけの人間を殺した!?」
キセルを振りかぶる。だが先のファイアボールで受けた火傷が、その動作を僅かに鈍くした。
それを見逃すルイージではない。暴発するルイージロケットが、ゴエモンの右肩に直撃した。
「がはっ!?」
砕ける右肩。手から滑り落ちるキセル。勝敗は、もはや決した。
「て、てめぇ……!」
「別に、大した数を殺しちゃいない……ただ、裏技を使っただけさ」
「裏技……マリオが言ってた、あれか……ぐっ!」
立て続けに、ルイージはゴエモンの腹に鉄拳を打ち込み……
その手から、高圧電流を流し込む。マメーリア王国で得た技「サンダーハンド」だ。
「があああああああああっ!!!」

やがて、電流が止まる。ゴエモンは壊れた人形のように、その場に崩れ落ちた。
「……終わったな。僕の邪魔をするからだ」
ここまでの戦いで、ゴエモンにはもう残機はない。これで彼は死を迎えるはずだった。
……しかし。
「まだ……でぃ」
立ち上がるゴエモン。その瞳からは、闘志は消えていない。
「しぶといなぁ……まだ死んでなかったんだ」
「死ぬわけにはいかねぇ……お前の兄貴達を逃がすためにも、
 そして!てめぇに殺されたインパクトや、仲間の仇を討つためにも!」
髪が逆立ち、金色に光り輝く。ゴエモンの怒りが開放される。
「俺はてめぇを、ぶっ倒す!!!」
超サイヤ人……いや、これこそが彼の奥義「一触即発の術」だ。
自身の防御力を犠牲にし、攻撃力を限界まで引き上げる技。
「ふぅん、刺し違える気?キセルも小判もない君に何が出来るって言うんだ」
その覇気に一瞬気圧されるも、ルイージから余裕は消えない。彼にはまだ50以上の残機がある。
ゴエモンの攻撃がどれほどであろうと、それは一発限り……決して彼の死にまでは届かない。
「へっ……その油断が、命取りだぜ!」
「だったら……僕の最大の技でとどめを刺してやる。自分の無力をかみ締めながら……死ね!」
地面を蹴り、ルイージはゴエモンの懐へと飛び込む。
僅かな一瞬、炎を宿らせて――彼の拳は、ゴエモンを捉えた。
だがそれと同時に、ゴエモンの拳にもまた闘気の光が宿る。
「ファイアジャンプパンチ――!!!」
「電・光……パァァァァンチ!!!」
炎の拳と光の拳が交差する。そして――



「無限増殖……だって?そんな技が……」
マリオの口から出た言葉に、ロックマンは絶句する。
悪鬼と化したルイージから無事逃げおおせたマリオ達は、彼に対抗すべく作戦会議を行っていた。
だがマリオの語る「裏技」の存在は、仲間達を絶望させるに十分だった。
「少なく見積もっても100人以上……あいつはストックを貯めているはずだ。
 その秘密は、あいつが持っていた甲羅にある。
 あれと階段さえあれば、俺とルイージはいくらでも残機を増やすことが出来る」
「それじゃあ!ゴエモンさん達の戦いは全部無駄になるってことですか!?
 ソニックもタコスケもファイターロアも、霊夢さんもヨッシーも!みんな何のために命を賭けて!」
愕然とするロックマン。悔しさに、彼の肩が静かに震えている。
「も……もう無理だぁ!!」
続いて、絶望の悲鳴が上がった。スペランカーだ。
「勝てるわけない……残機が無限なんて、勝てるわけないよ!!
 ビッグバイパーもツインビーも、ゴエモンインパクトやゲッP−Xまでも!!
 みんな、あいつ一人に墜とされた!!どうしろっていうんだよ!!」
日頃ヘタレ扱いされるルイージだが、その真の実力はマリオにも勝るとも劣らない。
迷いを完全に捨て、人殺しへの躊躇いを捨て、そして無限増殖により半不死身と化した彼は、
巨大兵器を持ってしても止められないほどの最悪の存在と化していた。
「どうにもならない……どうしようもないじゃないか!!」
泣き喚くスペランカー。
その時……鈍い音が響いた。彼の顔を、一振りの拳が捉えたのだ。
「ぐはっ!」
スペランカーを殴ったのは、原人スタイルに、帽子を被った顎の特徴的な男。
「……高橋名人!?」
「100人がどうした……それくらいの数が、どうだっていうんだ」
高橋名人は静かに語り始める。彼が潜り抜けてきた、辛く苦しい過去の戦いを。
「俺が冒険した冒険島は……そんなものじゃなかった!
 地獄という言葉すら生温い……このバトルロワイアルすら可愛く見えるほどのな!」
スペランカーは言葉を返さない。マリオとロックマンも、黙って彼の話に耳を傾ける。
「あの島のトラップの数々は滅茶苦茶だった。そう、理不尽の極みだった!
 ある場所では、たった3匹の蝙蝠、それを突破するために9時間以上の時間がかけられた!
 そして……その9時間の間にどれだけの命が散ったか……!」
「な、なんですかその島……僕達のシリーズにもそんな理不尽なトラップは聞いたことないですよ!?」
「そうだ。100人や200人どころか、1000人いたって超えられると思えなかった。
 たった3匹の前に、それだけの俺の命が簡単に散らされたんだ。ふふ……おかしいだろう?」
「名人……あんたが何を言いたいか、わかったよ」
どこか懐かしげに笑う名人に、マリオもまた不敵に笑い返す。
「あんたの話でわかったことが二つある……
 一つは、理不尽には理不尽で対抗しろってことか」
向こうが無限1UPなんて理不尽な手で来るなら、こっちもそれ以上の理不尽で立ち向かう。
今の鬼神と化したルイージに対抗できるとすれば、それしかない。
「そうだ。たった3匹の蝙蝠にもできたことだ、俺達にだってできないことはない」
「で、でもどうやって?」
戸惑うロックマンに、マリオは話し始めた。
「残機は無限じゃない。持てる数には限りがある。俺が話した無限増殖技には「穴」があってな……
 規定数以上まで増やせば、バグになり……残機は1に戻る」
それは、ルイージに対抗しうる「理不尽」な穴に違いなかった。
「名人なら知ってるんじゃないか?」
「そうか!確かに、君達のゲームではそうだった!残機127を超えたら、処理能力の関係で……」

マリオは懐からキノコを取り出す。1UPキノコが3つだ。
「用心深いルイージのことだ。恐らく限界ギリギリまで残機を回復してくるだろう。
 そこに、このキノコを食わせれば……」
希望が見えてきた。しかしこれは同時に、危険な賭けでもある。
「ルイージ……俺はもう迷わない。兄として、お前の暴走を止める!」
「勝てるでしょうか、僕達……」
「……ロックマン、名人はさっきの話でもう一つ、大切なことを教えてくれたよ」
 名人……あんたは、その理不尽な冒険島を……クリアできたんだろ?」
「……ああ、そうだ!」
マリオの質問に、高橋名人は力強く頷いた。
ロックマンは理解する。名人が伝えようとした、もう一つのことを。
「諦めなければ、道は必ず拓ける……!!」
「……そうだ。行こう!」
立ち上がるマリオ。続いてロックマンと高橋名人も立ち上がる。
……だが。
「ん?どうした、スペランカー?」
スペランカーは立ち上がらない。倒れたまま、ピクリとも動いていなかった。
「ま、まさか!?」
名人が慌てて、スペランカーの手首を握る。脈は、なかった。

「!?死んでる……!!」

先程の高橋名人の鉄拳を受けたことで、スペランカーは最後の残機を失っていた。



「100、101、102……」
階段で甲羅を蹴りながら、ルイージは数を数えていく。
無限1UPだ。ゴエモン達の攻勢で消耗した彼の残機が、瞬く間に回復していく。
そう、この甲羅が存在する限り、ルイージの命は終わらない。
「あの散切り頭のせいで、兄さんを逃がしてしまったが……
 まあ、いいさ。ほんの少し死ぬのが遅れるだけだ……どれだけ足掻こうと……」
だが、次の瞬間。
「何っ!?」
蹴り続けていた甲羅が、ひび割れ……砕け散った。
「馬鹿な!?こんなことくらいで砕けるようなヤワな甲羅じゃ……」
驚愕するルイージ。これで、無限増殖の手段は失われることとなった。
はっ、とあることに気付き、振り返る。
その先には黒コゲとなった、かつてゴエモンだったものが横たわっている。
「そういうこと、か……最初から、それが狙いだったわけか」
ようやく理解した。ゴエモンの、あの最後の悪足掻きの意味を。
こいつは最初から、自分ではなく甲羅を狙っていたのだ。
「やってくれるじゃないか……!」
ゴエモンの亡骸の前に立ち、ルイージは忌々しげに見下ろす。
そして、まるで炭を潰すように、その足でゴエモンの亡骸を踏みにじった。
「……まあいい。今の僕の残機は123……これだけ増やせればもう十分だ」
無敵の手段を失ってもなお、ルイージは余裕を絶やさない。
「待っていろ兄さん、いやマリオ……すぐに追いついて、こいつの後を追わせてやる……!」

【ゴエモン@がんばれゴエモン 死亡】
【スペランカー@スペランカー 死亡】




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