ユーゼス昔話
――少し昔話をしよう
昔々、何百年前何千年前何億年前……いや時間の枠の外の出来事です。
あるところに一人の男がいました。
男は、不器用でしたがとても心優しい人間でした。
生まれた星も、他の星も、分け隔てなく愛していました。そして、その星に住む人々もまた愛していました。
どんな星にも不幸になる人々はいます。
男はそんな人々を助けるため、必死に勉強して、多くのものを作りました。
ほんの少しでも幸せな人々を増やすため、男は身を粉にしてでも頑張りました。
男はそんな生き方に満足していましたし、自分を犠牲にしているとも思いませんでした。
そんな男の前に、人の形をした奇跡が舞い降ります。
人々に『光の巨人』と呼ばれる天使が現れたのです。
『光の巨人』たちは、人間ではできなかったことを簡単にやり遂げ、男に救えなかった人々を救いました。
『光の巨人』は多くの人を救いました。
男の一生をかけてできないことを容易に行う『光の巨人』の姿を見て何を思ったでしょうか?
嫉妬でしょうか? 自棄でしょうか? それとも絶望でしょうか?
いいえ、違います。
尊敬でした。それは純粋に『光の巨人』の立派さを讃えたものでした。
男は何も変わりませんでした。
そう、何も変わらなかったのです。
『光の巨人』の活躍とは別に、自分も自分で周りの人々を助け続けたのです。
ですが男の周囲には変化がありました。
男のような人々を助けようとする人間を軽んじ、助けられても感謝すら示さないようになりだしたのです。
人々は口々に言います。
「何かあっても、『光の巨人』が助けてくれる」
『光の巨人』の行いは、人々を甘えさせただけでした。
男はこのままでは皆が駄目になってしまうと言いました。
けれど、誰も男の話に耳を傾けることをしません。
男は、それでも必死に皆を助ける方法を探し続けました。
もしも人間が、『光の巨人』と同じことができれば『光の巨人』は必要ありません。
そんな焦りが生んだ悲しい事故だったのでしょう。
男は、自分の造った道具の失敗に巻き込まれ、大怪我を負ってしまったのです。
聞きたくない言葉を叫ぶ男。けれど今まで自分たちを助けてくれた男。
人々は怪我を負い役に立たなくなったからと、そんな男へ石を投げつけました。
『光の巨人』がいる以上、今や男は必要とされていなかったのです。
男は、始めてその時思いました。
―――『光の巨人』になりたいと。
せめて、醜い人間は無理でも美しい星と動物たちだけでも救いたいと。
男は動かなくなった体を引きずり、軽蔑していた『他人を不幸にする者たち』と手を組んででも『光の巨人』を調べました。
『光の巨人』と同じことができるようになるのではなく、『光の巨人』そのものになる。
それこそが、真の幸福への鍵と信じた男。
けど、それは最悪の禁忌へつながる扉の鍵だったのです。
男は知りました。
宇宙は、世界は、一つではないことを。
無限に分岐する平行世界が、また無限に広がる多次元世界の一つ。
その多次元宇宙もまた至高天を中心とした無限の多層世界の泡沫。
そして多層世界も、全てを分かち存在する無限の並列世界の一つでしかない。
無限を無限乗に掛け合わせた『世界』の、ちっぽけな1つの宇宙が、自分の知っていた『世界』でした。
けれど、どの『世界』も、自分の『世界』と同じく不幸になる人々がおり、本質的に変わらないことを知りました。
男は、貪欲に無限世界の知識にのめり込みました。
もし、もしも。これだけの世界の英知を結集させれば、あらゆる世界で、真に幸せな人々で満たすことができるのではないかと。
『本当に幸福な世界』 が作れるのではないかと。
男の知識の集積は、止まることを知りません。
目的のため、男は加速を続けました。その方向へ進んだ先、行き着く場所を知るために。
ここが、男の始まり。 果てしない永劫の開演。 終わらない円環の開始点。――爆心地。
男はついに知ったのです。
神様とも呼ばれ、運命とも呼ばれ、イデとも呼ばれ、アカシックレコードとも呼ばれる、無限の世界全てを支配する大いなる力と意思を。
そして、『光の巨人』はその使者であることも。
男の心に絶望の嵐が吹き荒れました。
男がいくら幸福を願おうとも、決してそれは許されないことだと理解したのです。
『光の巨人』を超える存在、アカシックレコードは傲慢でした。
宇宙怪獣とも呼ばれる破壊神を使い、世界を滅ぼしていました。
イデと呼ばれる力を使い、全ての人間を強制的に統合させたこともありました。
無限の宇宙の中、何京とある世界がこの存在に無理やり滅ぼされてきました。
人を気まぐれに救うけれど、同じくらい気まぐれに世界そのものすら滅ぼす存在が、男の前に立ちふさがったのです。
なくなった世界の人々は、本当に救いの手を差し伸べる価値もなかったのか?――否。
それから生まれてくるはずだった、子供の未来まで奪う権利があったのか?――否。
それまで積み立ててきた全てを否定することなど、誰ができようか?――否。
――駄目だ。 駄目だ駄目だ。 これでは誰も救われないし救えない。
男は優しすぎたのです。純粋すぎたのです。
男は、絶望の中、それでも涙を流し、血を流し立ち上がりました。
『運命』を、『アカシックレコード』を超越する『光の巨人』となる。
それだけが、男の全てとなりました。
数々の『運命』が、男を遮ります。
そのたび、男は何度となく叩きのめされました。
しかし、決して男は諦めません。何度どれだけ痛い思いをしても立ち上がります。
男の側には誰もいません。ずっとずっと一人ぼっちです。
なぜなら、助けてくれる誰かと出会うなんて『運命』は変えられてしまっているのですから。
男は、涙を仮面で隠します。
長い孤独であふれる涙と血を仮面の下でぬぐい、たった一人で戦い続けました。
男の思いが実ったのでしょう。
たった1度だけですが、ついに『運命』を抜き去り、たどり着いたのです。
ついに、男は『運命』を超越した『光の巨人』――新しい神様となり、古くて悪い神様に戦いを挑んだのです。
きっと、男が勝って皆を幸せにする世界を作るが最もいい終わりだったのでしょう。
けど、これは御伽噺ではなりません。幸せなおしまいが来るとは限らないのです。
結果は――男の負けでした。
男は『光の巨人』の力を奪われ、命を失いました。
『運命』も、彼を恐れたのか、自分と同じ力を身につけた彼に激怒したのか……
命を失うだけでなく、『運命』前に、男は自身の運命すら捻じ曲げられました。
男にかけられた呪い――それは、終わらない悪夢でした。
『あらゆる世界で誕生し、あらゆる世界で『光の巨人』をめざし、あらゆる世界で記憶を引き継ぎ、あらゆる世界で敗北し死亡する』
海の水をコップでかきだすようなものなら良かったのでしょう。それは、遅々としても進むものですから。
男にはそれすら与えられませんでした。
出口を求め、同じ円環を回り続ける。諦めない男の性格すらも織り込んだ究極の罰。
男は、今日も回り続けます。
いつか、いつの日か円環を螺旋に変える日を夢見て。
いつの日か、神の力を取り戻す日を信じて。 『光の巨人』になれることを祈って。
人間『U』『ZES』 から、超神 『U』LTRAMAN『ZES』T に還る刻まで。
そう、男の名前はユーゼスと言うのです。
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