お題・足を滑らせ踵落としを避ける6






 秀康の渾身の一撃を退け、宗矩は間髪入れずに秀康の生命を刈り取る踵の一撃を繰り出した。
 秀康の天性の武芸の素質が発揮されたのはこの時である。彼は無意識に身体を傾け、頭部に致命的な一撃を受けない様にしたのだ。
 だが、宗矩の蹴撃は岩をも砕く。例え頭部への直撃を免れたとしても、胴体にこの凄まじい攻撃を受ければ、受け手は確実に死ぬであろう事は明らかだった。
 そして、秀康の回避は不十分だった。頭への一撃は避けられても、胴体への一撃はどうあっても避けがたい。宗矩の蹴撃の軌道は、確実に秀康の死命を制しようとしていた。
(もらった)
 宗矩は自分の任務達成を確信し、薄く笑みを浮かべる。
 しかし、次の瞬間宗矩の表情が驚愕に彩られた。足を滑らせたか、秀康の体勢が更に崩れたのである。宗矩渾身の蹴撃は、秀康の左足を粉砕するに留まった。
 もしこの時雨が降っていなかったなら、この一撃で秀康の生命は潰えていただろう。
 秀康を遠乗りに誘き出す格好の材料たるこの雨が、最後の最後で邪魔する格好になったのだ。
 宗矩は自らの不手際と不運に内心舌打ちしつつ、今度こそ確実に仕留めるべく、激痛で失神しかかっている秀康に向けて歩み出そうとした。
 しかし、運は再び秀康に味方した。今まさに宗矩の一撃が繰り出されようとした時、一発の銃声が響いたのである。
 それに遅れる事数瞬、宗矩は一間ほど吹っ飛ばされた。皮肉にも、左足の大腿部を撃ち抜かれていた。



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