お題・足を滑らせ踵落としを避ける1
太く、固く、巌のような塊が、振り下ろされる。
それは、正しく死神の鎌のような…否、鎌などと生温いものではない。
例えるならば、そう、金剛石の戦鎚とでも表現しようか。
鍛練に鍛練を重ね、遂には人の肉体とは思えぬ硬さを得た…踵。
それが、風音を立てながら、男の顔面に迫る。
その速度は野球投手の最高の速球よりも速く、その硬さと速さの重なりは、迫撃砲のそれを男の脳裏に浮かべさせた。
当たれば…いや、もはやどうやっても避ける事の叶わないその一撃、首が飛ぶ処か、胴を左右に引き裂く一撃、芸術の、兵器の粋にすら達した踵落としが、男の脳天へと到達し……!
驚きの声は、どちらのものであったか。
必殺の一撃は、男の脳天を砕いてはいなかった。
完璧な速度、威力、タイミングを持って放たれた一撃は、双方にとって予期せぬ事象によって、定められた結末を歪められた。
そう…男、『粘着番長』の体を覆う、粘液によって、その表面を滑り落ちたのだ。
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