ゴジラの心理描写






『てめぇっ!よくも、よくもピグモンを!!』
怒りに任せ、殺人鬼・ゴジラへと突っ込むジラース。
だが感情に心乱すジラースでは、今の冷静に徹するゴジラに挑むことは無謀だった。
ゴジラの口から放射能光線が吐かれ、ジラースの右目を焼く。
『ぎゃあああああああっ!!』
ジラースの悲鳴が響いた。
右目を押さえ、激痛に悶え転げまわるジラースの姿を見ながら、ゴジラは口元をつり上げる。
『痛い、いたいいたいいたいぃぃぃぃっ!!』
『痛いか?だが、殺された私の息子の痛みは、こんなものではなかった』
『何言ってんだ、俺はお前の息子なんか……あぎゃああぁぁぁぁ!!』
力任せにジラースの襟巻きを引き千切る。
自分の身体の一部を引き千切られた側の苦痛は、如何程のものだろうか。
『うあ、ああああああ!!』
悶えるジラースを、ゴジラは冷酷な目つきで見下ろす。
今のゴジラにとっては、目に映る全てのものが“息子の仇”だった。
この狂ったゲームを、それを行う者を、そしてそれを止められなかった者全てを憎んでいた。
『死ね。息子が受けた苦しみを、存分に味わいながら……ん?』
地べたに這い蹲るジラースを見ながら、ゴジラはふと気付く。
襟巻きを千切ったジラースの姿は、自分の姿と酷似していた。
『ほう……これは、使える』

ようやく痛みがかろうじて治まり、ジラースはふらつきながら立ち上がった。
目の前に、ゴジラの姿はない。
『くそっ……畜生、畜生……ッ!』
目から涙を溢れさせ、ジラースは拳を地面に叩きつける。
守れなかった。あの悪魔の手から、ピグモンを。大切な仲間を……!
『許せねぇ……ゴジラ……!絶対に、絶対に奴だけは……!』
目に満たされた涙はやがて怒りに変わり、ジラースはゴジラ打倒を決意した。
『ジラースーッ!!』
その時、高層ビル群の向こう側から、声が聞こえてくる。
仲間のゼットンとベムスターだ。
『ジラース、無事かっ!』
『みんな!……すまねぇ、ピグモンの仇を討てなかった……!』
『……!!貴様……!』
しかし、二人が自分を見る目は……仲間に対して向けるものではなかった。
その視線に込められた感情は……敵意、だろうか。
『?……どうしたんだよ、ゼットン?』
『我々を前に逃げずにいるとは、いい度胸だ……ゴジラ!』
『な!?何を言ってるんだ、おい!?』
『ゼットンさん。あそこに落ちている襟巻きは……!』
『!ジラースの……貴様、ピグモンだけでなくジラースまで手にかけたのか!?』
燃え上がる怒りを形にするかのように、火球がゼットンから放出された。
火球はジラースのすぐ横を掠め、背後のビルを木っ端微塵に破壊する。
『っ……!?待て、何言ってんだよ二人とも!』
『黙れ!!二人の仇、討たせてもらう……ゴジラッ!!』


『始めたか……』
同士討ちを始める三体の怪獣。
反対側のビルの陰に隠れたゴジラは、それを見ながらほくそ笑んだ。
『あの二体を前に生き延びられるとも思えんが……せいぜい、足掻くがいい』
仮にもウルトラマンを倒したことのある強豪怪獣二体が相手となれば、さすがのゴジラも分が悪い。
だから、ゴジラは襟巻きを千切ったジラースを殺さずに放置することで、誤解の種を撒いた。
その策は功を奏した。あの二人はジラースを自分だと勘違いして、襲い掛かっている。
心が痛まないわけではない。自分がピグモンを殺したことに対するジラース達の怒りは、
純粋なものだということはわかった。それを利用して罠にかける自分の行為がいかに卑劣であるかも。
だが……自分の息子を殺されたゴジラに、迷いはなかった。
息子の無念を晴らすために、鬼にでも悪魔にでもなると誓ったのだから――



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