妄想オカルティストロワ






「お願いです大槻さん!! 一緒に来てください!! 私たちにはあなたの力が必要なんです!!」
山本は白衣の男に、縋り付くようにして懇願する。
しかし、白衣の眼鏡の男―――大槻教授は、口を堅く引き結んで首を横に振る。
「駄目です。私は科学者だ。科学者たるものが、非科学的なことを言うオカルティストたちと手を組むことなどは出来ない」
「な、何故ですか……今は、オカルト信者も否定派も関係なく、みんなで生きて帰れるために手を組むべきじゃないんですか!!」
山本はなおも食い下がる。だが大槻は眼を背けるばかりだ。
「何度言われても私の気持ちは変わりません。さあ、早く私の前から消えてください」
「……」
山本にはもう大槻を振り向かせることの出来る言葉は無かった。
苦虫を噛み潰したような顔でしばらく白衣の背中を見つめていたが、やがて踵を返して走りだした。
(クソッ!! なんで僕たちは分かり合えないんだ!!
オカルト肯定派も否定派も、科学者も宗教家も、ロリコンもペドも、みんなで力を合わせられたらいいのに……!!)


「行きましたか」
山本の姿が見えなくなったのを確かめて、大槻は安堵のため息を漏らした。
「それでいい。あなたをここから先の戦いに……巻き込むわけにはいかない」
思えば、山本とは行く道は違えども同じ反オカルトの論者として刺激しあうこともあった。
多くのファンも持つ作家にしてロリコンである山本を、ここで無駄死にさせるわけにはいかない。
「さて、そろそろ出てこられたらどうですか?」
その大槻の言葉に反応したかのように、一人の男がゆっくりと姿を見せる。
上品そうなスーツに身を包んだ、一見真面目そうに見える男だ。
しかし、その男の周りには大小様々な姿の奇妙な生物がまとわりついていた。
目は大きく、はげ頭で、手足が異様に細くて長い。まるでSF映画から出てきたかのような姿だった。
「お久しぶりですね、教授」
「矢追さん……」
「この子たちは私の式神のようなものでしてね」
「宇宙人、ですか」
「教授、この世界には科学では説明が付かないことが沢山あるんですよ。私たちの存在がそれを証明しているではないですか」
「確かにそうですね。しかし、それは許されないことなんですよ。私たち、『科学者』にとってはね」
大槻教授の体から俄に熱が立ち上る。
「教授、ここを通してもらうわけにはいきませんか?」
矢追が口を開くたびに、彼に追従している宇宙人たちも奇声を上げる。
「そうさせないために私はここに残ったのですよ」
「では致し方ありませんね」
そう言って指を鳴らすと、矢追の前にいた三匹の宇宙人が大槻に飛びかかった。

「プラズマ解放!!」

大槻がそう叫ぶと、一瞬にして彼の体は白い炎に包まれた。
その炎は、三匹の宇宙人たちを一瞬にして消し飛ばした。
更に炎の中で大槻教授が叫ぶ。

「プラズマ参式・球電(ライトニングボール)!!」

大槻の手中から生み出された数十個の火の玉が矢追に襲い掛かる。
矢追のスーツのポケットから出現した沢山の小さな宇宙人たちがそれに向かって飛び掛る。
大槻の球電は、次々と宇宙人とぶつかり爆ぜていく。
(さすがに手強いですね……)
自分たちの命と引き換えに矢追を守って死んでいく宇宙人たち。彼らには生の喜びなどあるのだろうか。
増してや自分たちのような、『真実を探求する喜び』など……

「プラズマ伍式・人体自然発火(ヒューマン・コンブション)!!」

立て続けに次のプラズマを発生させる。それはさっきの球電とは違い、地面の上にまるで魔方陣のように絵を描いた。
(小さな玉とすることでプラズマの破壊力を高めたさっきの球電とは違い、広範囲に影響を与える結界のような術か?)
矢追はその魔方陣の効力を確かめようと目を凝らす。しかし、すぐにそれが大きなミスだったことに気がついた。
「なっ……」
矢追の右手から炎が上がる。宇宙人たちが消そうとするが火の勢いは増すばかり。
「無駄ですよ、その火はあなたの体の内部から上がっているのですからね。
この伍式「人体自然発火」は、捕らえた者の体の内部から火を発生させる術。
一度捕らえられれば、もう逃れるすべはありません」
大槻が語る前で、矢追の体はあっという間に燃え堕ちていく。
そして―――

「馬鹿な……」
大槻は目を疑った。墨と化して崩れ落ちた矢追の体の跡に残ったのは、怪我一つ無い矢追の体だった。
「教授、もう気付いているんでしょう? 私はすでに、地球人の身ではないということに―――」



前話   目次   次話