妄想ミステリ・サスペンスロワ






「どうして……どうして私達が……」
会場の東に位置する森の中。生い茂る木々と闇の間に、
中川典子は膝を抱えて身を隠していた。
大東亜共和国の全ての中学三年生が恐れる戦闘実験――第68番プログラム。
まさか自分たちが選ばれるはずがない。
皆がそう自分を言い聞かせ、その一年間を過ごしていく。
しかしいくら思い込んだところで仕方が無い。
何故なら典子たちは選ばれてしまったのだから。

しかし典子はおかしなことに気づいていた。
それは、このプログラムがクラス単位では無いということだ。
名簿を確認すると、自分の名のすぐ傍にいくつか見知った名前は並んでいた。
しかし、それ以外の名前は見たことが無いものばかり。その上日本人でない者までいるようだった。
何か実験の方法に変更があったのかもしれない。でもそんなことはどうでもいい。
「――七原くん」
名簿にあった、その名前。口に出してみると少し落ち着いた。
早く会いたい。会って、ここを脱出するんだ。殺し合いなんて――絶対に認めない。

「七原君って好きな人?」
「!」

突然後ろから掛けられた声にビクリと体を震わせ、典子は振り向き様に飛びのいた。
「だ、誰ですか?」
「わはははははは、僕の名前を知らないのか!そうかそうか!女学生さん!僕は榎木津礼次郎だ!」
「え、えっと……中川典子です」
相手の予想外のテンションの高さに思わずペースを取られてしまった。
高身長で、日本人離れしたまるで人形のような風貌のこの男には相手を黙らせる力があった。
悪い人には見えない。けれど、きちんと確認しなければ。
「あの、榎木津さんは、殺し合いに乗っているんですか?」
「僕が?この殺し合いにか?ははは、馬鹿言っちゃいけない!
どうして神である僕が他人の命令を聞かなきゃいけないのだ!」
「じゃ、じゃあ!一緒に脱出を目指しませんか!?こんな殺し合い、絶対あってはならないわ!」
「静かに!」
思わず身を乗り出し大声を出していた典子の肩を榎木津が掴み、それを制した。
迂闊だった。こんな場所で大声を出すなんて。
(榎木津は先ほどから今の典子と同じくらい大きな声を出していたが、そこに気づかないほど典子は純粋であった)
謝ろうと顔をあげた時、気づいた。榎木津は典子の背中越しを見ている。
一体何が――

「――ッ!大丈夫ですか!?」
振り返ると、肩から血を流した男がフラフラとこちらに向かってきていた。
男の肩口は真っ赤に染まっている。大きい範囲では無かったが、鮮やかな赤と男の辛そうな表情が痛々しい。
「あぁ、大丈夫……。ありがとう。良かった、人に会えて――今そこで襲われ…・・・うっ」
「座って下さい!水、飲めますか?」
息も絶え絶えな男を木の根元に座らせると、すぐさま自分の水を取り出し男に飲ませた。
ナイフで引き裂かれたような傷と、男の言いかけた言葉に胸がドキリとする。
まさかこの近くに殺し合いに乗った者が――?
と、ここまで来て気が付いた。先ほど自分を制して以来、榎木津が黙りこくっているのだ。
男の介抱くらい手伝ってくれてもいいのに。
「榎木津さ――」
「――やめろ、典子ちゃん。こんな嘘吐き、相手にすることは無い」
――嘘吐き。
一瞬、その言葉の響きに典子も怪我の男も動きを止める。
嘘吐き?この男の人が?
「ハハハ……何を言ってるんですか――。僕が、嘘吐き?」
「そうだ!嘘吐きだ!行こう、典子ちゃん!」
「な、ちょ、ちょっと待ってください!近くには、僕に傷をつけた殺人鬼がいるんだ!危険です!ウッ――」

引きとめようと体を乗り出した男は傷が痛むのか顔をしかめた。
その表情や、今自分たちの身を案じ引きとめた言葉に嘘は無いように見える。
でも、今なんで榎木津さんはそんなことを?当てずっぽうで、相手を疑うようなことを言う人間なのだろうか?
まだ両者とも出会ったばかりの典子には、判断をする術が無かった。けれど――

「榎木津さん、駄目です。怪我をしている人を放っては行くことなんて出来ません。
この人が嘘を吐いているんだとしても、怪我をしているなら何も出来ないはずですよね。
だからら、治療だけは私にさせて下さい。――御願いします」

見捨てちゃ行けない。自分の正義を信じて、人を信じなきゃいかなきゃ行けない。
きっと、七原君だってこうするはずだから。

「……わかったよ、典子ちゃん。良かったな、お前。典子ちゃんが優しくて」
「ありがとう。典子さん、でいいのかな?」
「はい、中川典子です」
「よろしく。僕は――


――夜神月です」

◇◇◇

――計 画 通 り !

いや、計画通りとは言えないかもしれない。
まさかいきなり嘘だと見破られるなんて思わなかった。
傷の付け方や、現場で揉み合った後なども入念に残してきた。
まだ話してはいないが、自分がどういう状況で誰に襲われ、どう追い払ったのかも全て周到に用意してある。
出会ったばかりの人間にバレるようなミスなどしていないはずだ。
一体どういうカラクリを使ったのかは分からないが厄介な相手であることは確かだ。
身に着けていたはずのデスノートは予想通り没収されていたが――まぁいい。上手く殺してやる。
こんなところで死ぬわけにはいかない。僕は優勝し、新世界の神になるのだから。

「ライトぉ?変な名前だなぁ!仕方ない!典子ちゃんに免じて君は神の下僕にしてやろう!」
「ハ、ハハハ……神って、あなたのことですか?」
「そうだ!僕は“名”探偵!榎木津礼次郎だっ!!」


【一日目・午後八時/C−5 森林】

【中川典子@バトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]不明
[道具]支給品(未確認)
[思考]
基本方針:皆で力を合わせて脱出する
1.月の介抱
2.秋也を探す
※榎木津、月、両者に対する不信感が少しだけあります。

【榎木津礼次郎@百鬼夜行シリーズ】
[状態]健康、夜神月への不信
[装備]不明
[道具]支給品(未確認)
1.月を警戒
2.もう少し会場を探索したい
3.典子を守る
※目の力で何かを見て、月へ不信を抱いたようです
※心は許していませんが、チームとしてやっていくつもりです

【夜神月@デスノート】
[状態]肩に切り傷(ナイフで自分で傷をつけました)
[装備]不明
[道具]果物ナイフ、他支給品
基本方針:ステルス一直線
1.神!?探偵だと!?駄目だコイツ、早くなんとかしないと……
2.典子達を利用
3.Lをマーダーにしたてあげる



前話   目次   次話