スピードキング
蒼穹を輝く彗星が駆ける。
否、彗星ではない。急激に上昇したかと思えば反転急降下。
かと思えば螺旋を描く軌道で再び上昇、雲の尾を長くたなびかせその身を陽光に晒す。
黄金の領域が消失し、その内からやはり黄金の戦士が姿を現した。
「……ハハッ」
その内で、切れ長の目の男が忍び笑いを漏らす。
「ハハハハ……ハハハハハハハハッッ! いいぞ、最高だ!」
瞬く間にそれは大笑へと変わる。
男――ジャック・シスコの操縦に、この機体は寸分の遅れもなく応えた。
『SPT-ZK-53U ザカール』
ゾイドとは明らかに違う、人型の機体。だというのに飛行型ゾイドも型なしと言えるほどの空中機動を可能としている。
ゴールドのカラーリングは少々気に入らないところだが、そんなものはこの機体が誇る「ある機能」により粉みじんに消し飛んだ。
それはV-MAX。
全身各所に配置されたスラスターのアフターバーナーが点火し、機体を再び金の輝きが包み込む。
通常よりも3倍以上の出力で暴れ回るじゃじゃ馬を、しかしジャックは歓喜の表情で持って受け入れた。
愛機ライトニングサイクスでも辿り着けなかった領域。
空気を切り裂き、音すらも置き去りにするような常識外の速度。
「だがこんなものじゃない……お前にはまだ先がある。そうだろう!?」
呟いて、スイッチを押しこむジャック。それは、ザカールのV-MAXをもう一段階上へと押し上げるギミック。
再度V-MAX発動。だが今度は、そこに赤い血のような何かが割って入る。
機体各部から噴射された強化剤。
それは瞬く間に燃焼し、黄金空間を緋の領域へと染め上げた。
「……ッ!」
瞬間、まるでコマ落としのようにザカールの姿がかき消える。
視界が目にもとまらぬ速さで空転。
300kmを越える速度で疾走するライトニングサイクスに乗りなれたジャックでさえ、持て余すほどのスピードだ。
「……する……これは……こいつは……ッ!」
血が頭へと昇り、視界が狭くなる。このままでは危険だと頭のどこかで警告音が鳴った。
だがそれすらも、痛快だ。
「ゾクゾクする……ゾクゾクするぜッ! 最高だ、お前は……ッ!」
一際巨大な雲に突入。
キャンバスを絵具で塗りたくるがごとく、赤い彗星が白の領域を侵し、消し飛ばし、蹂躙していく。
数瞬の後、効果時間を終えたV-MAXは消失した。
その周囲にはもはや何もない。山ほどもあった雲は完全に吹き散らされていた。
「クククッ……俺は運がいい。こいつなら誰にだって負けやしない。お前もそう思わないか、ビット・クラウド……!」
ジャックの心中にあるのは、かつて自分をスピード勝負で破ったただ一人のゾイド乗りの姿。
殺し合いなどどうでもいい。挑まれれば受けるが、こちらから仕掛ける気はない。
なんならいつものように依頼を受けて助っ人をしてもいい。
だが、スピード勝負となれば話は別だ。
このザカールを越える速度を有する機体と出会ったならば……是非とも競い合い、またぶつかり合ってみたい。
かつてビットと戦ったときに感じたあの興奮を、また得られるのなら――
「ビット……お前もここにいるのか? だったらまた、あのときのように、俺と――」
黄金の流星が地に降り立った。
まずは失ったエネルギーの補給方法を確立させねばならない。
ザカールはマップに示された手近な補給所へ向け、走り出した。
【一日目 12:10】
【ジャック・シスコ/ザカール】
【パイロット状態】 健康
【機体状態】 EN80%
【現在位置】 G-3
【思考・状況】
1:自分から仕掛ける気はないが、相手が高速機であればスピード勝負を挑む
2:条件次第で誰かの助っ人として雇われてもいい
【ジャック・シスコ@ゾイド新世紀スラッシュゼロ】
高速戦闘を得意とし、また生き甲斐とする凄腕のゾイド乗り。
普段はチームに属さず依頼に応じて助っ人に入るスタイルだが、後に高速機ライトニングサイクスで固められたチームに加入する。
普段は冷静だが、スピード勝負となると別人のように熱くなる一面がある。
【ザカール@蒼き流星SPTレイズナー】
グラドス地球占領軍の司令官、ル・カインの専用機である最新鋭のグラドス製SPT。
ゴールド・メタリックに輝くボディカラーが特徴。全高11.82m。
グラドス軍に反抗し高い性能を示したレイズナーを元に開発され、レイズナー最大の武器であるV-MAXを標準装備している。
ザカールのV-MAXは従来より15%以上出力を増したV-MAX・スーパーチャージ(通称レッドパワー)である。
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