乾いた大地は――






乾いた大地、そして延々と連なる線路。それ以外は何も無い殺風景なB-3区画。
そんな場所を北へ進む巨人は大変に目立つ。
髑髏状の頭部、その左右に突き刺さった巨大な鎌。
いかにも悪役然とした姿の巨人の名はガラダK7。
Drヘルが世界征服のため最初に送り出した機械獣である。
その操縦方法はこのバトルロワイアル内でも特殊だろう遠隔操作型だ。

そのガラダK7の手のひらの上に立つ女。彼女が浮かない顔をしているのは一目でわかる。
理由を挙げればきりがないだろう。
突然巻き込まれた殺し合い。
他の参加者からいきなり攻撃されても文句は言えないであろう外見の機体の支給。
遠隔操作だというのに遮蔽物の一切無い地からのスタート。
機体の特性から各種データ閲覧や他の機体へ通信などは単体では不可。
代わりにあるのは紙の冊子とアナログなトランシーバー。
その他にもetc……
だが極めつけは――。

「不……幸だわ……」

とてつもない乗り心地の悪さ。
本来、搭乗者など想定していないガラダK7にそれを求めるのは酷な話ではある。
が、他の参加者の接近への警戒。
歩けば砂塵舞うガラダの後を追うことなど考えれば手の平に乗るのがが最良の手段だ。「不幸を呼ぶ女」と自らをそう呼ぶ紅麗花。
出だしからハズレを引いた訳である。
「それでも……挫ける訳には、いかない!」
そうやって自分に言い聞かせられるのは彼女がこんなことに馴れているからだろうか。
そうではない。
堕天翅達が考えるよりも惨たらしい命を弄ぶこの場所で
簡単に挫けては、ましてや殺し合いに乗ることなど許されない。
そしてディーバの仲間達を裏切るようことは出来ない。
「どれだけ不幸になっても不幸の底は貫くだけ!」
それを可能にするアクエリオンや仲間達は近くには居ない。
もしかするとここには居ないのかもしれない。
それでも他に対主催者の思いを持った参加者が居ると信じ麗花は進む。

◆ ◆ ◆

駅構内に吸い込まれていくように線路が続いているのが見える。
まだ着いた訳では無いが市街地ももうすぐだ。
市街地に付けば遠隔操作のこの機体も荒野よりではあるが役立ってくれる筈である。
欲を言えば他の参加者の機体に同乗させてもらいながらガラダが操作することなのだが。

幾分乗り心地にも馴れ、そんなことを考えていると線路のすぐ側に一台のバイクが停車しているのが見えた。
人が乗っていることも確認出来る。

だとすれば相手も自分と同じハズレを引いた参加者か。
どちらもハズレとはいえこちらに歩が有るのははっきりとわかる。
相手を刺激しないためにも麗花はそこでガブラの歩みを止めトランシーバーを手に取った。

「こっちに手出ししねえって所を見るとあんたもやらないって口かい?」

話しかける前にトランシーバーから男が語りかけてきた。
周りに他の機体らしきものは無い。
おそらくあのバイクの参加者からだろう。
「私は紅麗花。ディーバの一員です。
 もちろん殺し合いに乗る気なんてないわ。
 『あんたも』ということはあなたも……あなた、名前は?」
「こいつはすまねえ。先に名乗るのが礼儀だわな。
 俺の名前はジロン・アモス。何分機体がこんなもんなんでね。
 先に敵意が無いかどうか確認しとかねえと安心出来なくってな」
「気にしなくて良いわ。私もあなただったらそうしたかもしれないし。
 とりあえずこの機体から降りてそっちへ行くから」
「良いのかい?こっちは口先三寸であんたを嵌めようとしてるかもしれないぜ?」
もちろん麗花も相手を信じ切ったわけではない。
だがガラダを操るバードスの杖を持っていれば
相手が何か仕掛けてこようとある程度は対処可能な筈だ。
そして白兵戦を仕掛けて来られても麗花自身腕に覚えはある。
本当に殺し合いをする気が無ければジロンに悪いことをしてしまうがそのときは謝るしかない。
それとジロンの喋り方には何か含みがあるように感じられて仕方が無かったのも事実だった。

ガラダから麗花が降り、ジロンの元へ歩く間にある程度の情報交換をする。
この地に降り立ちそれ程経っていない為、そのほとんどは元居た世界の話である。
発端はジロンのディーバとは何かという質問である。
ディーバを知らない人が居ないという訳ではない。
だが話していく内にお互いの住む世界が大幅に食い違うことに気づく。
おそらくジロンの住む世界は麗花達の世界の遠い未来。
更に飛躍すれば平行世界である可能性もある。
よくよく考えればあのガラダも麗花の知る技術とは近いようで遠く感じる。
主催者の底知れぬ技術力に麗花はある種の畏怖を覚えた。

「私達でこの殺し合いを止められるのかしら……」
「ま、やってみなけりゃわからねえだろうな。」

ジロンのそんな返事に事の大事さを理解しているのかと声を荒げそうになる。
だがふと思う。
ジロンが言う3日逃げ切ればどんな事でも許されるという彼らの世界の掟。
こんな掟が許され、イノセントと呼ばれる人々に支配される世界に住む彼には
この殺し合いの世界もさほどそちらと変わらないのかもしれない。
そう思えば良いか悪いかは別にして自然と大声を上げる気は失せてしまった。

◆ ◆ ◆

ジロンとの距離も数十メートルという所に差し掛かった時である。
「ところで嬢ちゃん、あんたが持ってるその杖。
そりゃいったいなんだい?」
当然それなりの長さのバードスの杖の存在に気付かれる。
一瞬、誤魔化しきろうかと躊躇はしたがここまで来たなら安心だろう。
それに仲間になる相手にこれ以上隠し事は出来ない。

「実は……あなたに隠して居たことがあるわ。
 ガラダK7は遠隔操作で動く機体で この杖で命令して動かすの。」
「するってぇと何かい?
 その杖に願えば後ろのそいつが動かせる、と」
通信機ごしにジロンが笑う。
麗花がしまったと感じた時には遅かった。

――バクシンクロン・マキシム――ジロンの掛け声と共に4機のバイクが隠していたのだろう駅から飛び出す。
合体しながら巨大化するとガラダK7の二倍以上はあろうかという人型のメカへと姿を変えた。
麗花の世界ともジロンの世界とも別の世界で作られたその巨大合体メカの名はバクシンガー。
本来なら5人乗りのこの機体は1人での運用を目的とした量産型である。

「隠していたことは気にするな。
 俺があんたの立場でも同じ事はしただろうしな。」
「くっ卑怯な!最初からこれが目的で?」
ガラダを呼ぼうとするがバクシンガーの着地の衝撃で杖は跳ね飛ばされてしまっている。
砂塵も巻き上げられ杖はどこにも見当たらない。
「卑怯で結構。別に最初からする気はなかったんだがな。
 機体から降りてるのに通信出来るってのが妙におかしいと思ったんだ。
 まあ、相手と読みあいするならもう少し頭回すか、最後まで切り札取っとくかしといた方が良いぜ」
バクシンガーの拳が振り下ろされる。
流石の麗花でも身を強ばらせるが――

「まだ、生きてる……?」

バクシンガーの手は麗花を直撃せずに近くの地面を指で摘んでいた。

「言ったろう?俺はまだ殺る気はねえんだ。
 それにこんなこと、おっ始めた連中信じちゃいなくてね。
 それとこいつは貰っていくぜ」
バクシンガーは器用に親指と人差し指でバードスの杖を掴んでいた。
「拾った命、大切に使いな。生きてたらまた会おう」
そう言いながらバクシンガーが分離しジロンを先頭に5機のバイクとガラダK7は去っていった。

◆ ◆ ◆

お気づきの方もいらっしゃるだろう。
ジロン・アモスと名乗ったこの男。
実は真っ赤な偽者。
その正体は粋なテンガロンハットがよく似合う。
泣く子も黙る二枚目ブレーカー、ティンプ・シャローンである。
ジロンの名を語った理由は
居るかどうかはわからんが
しつこいドマンジュウの兄ちゃんの悪評を高め
誰かに狙わさせるためという至極単純な理由からである。

「しかしこいつは便利なもんを貰ったな」
ガラダK7、使い道は様々である。
単純に戦力の増強、交渉の為の品、
適当に他の参加者襲わせて自分で倒して信用を得る。などなどだ。
なんにせよ、ガラダと一緒に居すぎればある程度限られてくる。
うまく隠せる場所を探しにティンプはひた走る。

◆ ◆ ◆
「不幸だわ……
 ――それよりも自分の愚かさを責めるべきね」
結局ジロンには逃げられてしまった。
致命的なミスでガラダを持っていかれてしまった。
戦力的にも移動手段としても殆ど何も出来なくなったと言って良い。

トランシーバーはまだ機能している。
近くを通りかかる機体に手当たり次第に通信をかけるか。
運が良ければ殺し合いに乗っていない参加者がだが運が悪ければ……
慎重にならなければいけない状態でそんな博打を打つような真似は出来ない。
麗花はスタート早々どん底にはまってしまった。

【1日目 13:00】
【紅麗花/なし】
【パイロット状態】 精神的ショック大
【機体状態】なし
【現在位置】B-1
【思考・状況】
1:対主催の参加者との合流
2:出来れば機体が欲しい
【備考】
ルールやMAPは冊子に纏められています
トランシーバーを持っています

【1日目 13:00】
【ティンプ・シャローン/バクシンガー&ガラダK7】
【パイロット状態】良好
【機体状態】二機とも良好
【現在位置】B-2 
【思考・状況】
1:C-5の湖にガラダK7を隠す
2:次に会う相手次第
【備考】


【紅麗花@創聖のアクエリオン】
不幸の星に生まれ不幸を呼ぶ人
下級生等からは慕われる存在ですが不幸
中国拳法やがサイコメトリーが使えますが不幸
11話終了後ですが不幸

【ティンプ・シャローン@戦闘メカザブングル】
二枚目気取りの三枚目
ジロンの親の敵
しぶとい

【ガラダK7@マジンガーZ】
マジンガーZの第一話に登場
初代TV版なので18m
武器は目のミサイルと頭部両サイドの鎌

【量産型バクシンガー@銀河烈風バクシンガー】
レップーン(大型三輪バイク)、
タイフーン、ハリケーン(バイク)、
モンスーン、サイクロン(サイドカー)の5機のバイクからなる巨大ロボ
武装は背中に背負った大型ミサイル「スピンファイヤーマックス」、両刀の剣「バクソード」など
量産型なため1人で動かせる
最大49mまで巨大化



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