マインドゲーム(後編)






#7-76の頭は銀色の棒がいっぱいあって、
そこから深い赤色がいっぱい出ていた。

なんだこれは?
これはなんだ?

わからない、わからない。よく見るんだ俺。
あ、よく見れば刺さってる。
よくステーキに付いてくるフォークとナイフのナイフ?
いや、違う。
それにしては薄い。
そう、これは――

「メスっすよー」
暇人たちが向かおうとしていた先から声がした。
若くて、いかにもダルそうな声だった。
「ども、こんちわぁーす」
その声の主はガクランを着て、ダルそうに地べたに座っている。
自分達からは15mくらいの差があった。
「どもども、みんなに愛される嫌われコテ。マナー君でーす」
そこで、急速に理解できた。
この男が#7-76をメスを投げて殺したということに。
「あれ、観月君のほうがわかりやすかった?」
恐ろしいほど体温が下がっていくのが理解できた。

「何故、殺した」
暇人は搾り出すように呟く。
「いや、だってコテロワじゃないすか。殺していかないとヤバいっすよ」
「コテロワだからって、殺す権利があるわけないだろ」
「あ、もしかして見せ場の無い死だから怒ってる? そりゃあNG言う権利はあるけど、
こっちだって努力したっすよ。アナザー逝きはマジ勘弁……」
「ふざけるなあぁぁ!!」
遮るように叫び、マナーの解説はストップした。これ以上、人の死を舐めきった話を一秒
たりとも聞きたくない思いが、この叫びを引き起こした。

「……おっさん、おっさん。今の外してるっすよ。つーか、マジ寒っ」

 こいつを殴る。殴って殺してやる。暇人は走り出し、マナーへと駆け出す。もうこいつ
は殺してもかまわない。奴が言うようにマナーは嫌われコテだ。殺したって文句を言う奴
はいないに違いない。いや、もしかしてここでこいつを殺せば、もう犠牲者は増えない。
俺は正しいことをやろうとしている。だから殴って殺すんだ。
 あと10m。待ってろよ、てめえ。散々殴っても、そのままでは終わらせねえ、そのガクラン引き裂いて、にやけた面にグルグル巻いて、窒息死させてやる。楽には殺させねえからな
 あと5m。もうすぐだ、絶対に殺してやる。絶対に殺してやからな。

 あと4m。絶対に殺してやる。
 あと3m。絶対殺すあと
 2m。殺してあと1
 mころし
 あと
 1
 m

 目の、
 前に、
 草が、
 立ちはだかる。

 うしろ
 いたい。

 「お、お、おめーマジおせー!」
 「いいじゃないか、間にあっただろ。それにさ、お前が話して敵を引きつけている間に
俺が後ろに迂回。その後、走り出したらギリギリまで待ってから、まず足を狙い、そこ
から仕留める。打ち合わせどうりじゃないか」
 「ギリギリすぎるっつーの! 俺がどんだけ怖かったか、お前わかってねーだろ!?」
 「いや、わかっているよ。お前さ、距離が5m以下になったとたん、いきなり顔がマジに
なった。それまでは余裕こいて、ヘラヘラしていたのにさ」
 「俺の観察してる暇があったら、さっさと投げろ!」
 怒るにいむらに、笑うマナー。対照的な二人の言い争いはしばらく続いた。
 「でも。あの俺を騙っての話術は良かった。暇人氏は本気で怒ったし。どこで身に着け
た?」
 「あ、あれは素」
 「は?」
 マナーはあっけにとられた。
 「学校や家では何時もあんな風なしゃべり方ってことさ」
 「…じゃあ、なんで俺とは素でしゃべらない?」
 「うーん。学校にはいわゆる“お前系”の友達いないからな。あ、言っとくけど、だか
らってお前と本音で話してないわけじゃないからな。お前とはこれが素なんだよ」
 馬鹿にされているのか、信頼されているのかわからなかったが反論はしなかった。
 「あとな」
 ポカッ
 「いて、何すんだよ」
 「誰が嫌われコテだアホ。嫌われコテ一位はお前だよ」
 「嘘だあ。ファン絶対に一人はいるしビリじゃないね」
 「現実を見ろ。ファンがいるのは俺で、お前は絶対いないから」
 「…やっぱ、無理かな。いないかな」
 「安心しろ。あそこでファンがついてもそれほど意味ないから」

 「あと、なんで『オレを装え』って支持を出したんだよ。どっちでも変わらないと思う
けど」
 疑問を口にするにいむらに対してマナーは即答した。
 「キャラだよ」
 「キャラ?」
 「ハカロワスレでみんなが培ったイメージとしては、俺はたぶん狡賢くて嫌みを言うの
が好きなタイプというか……。ま、そっち系だと思われている。対してお前や彗夜は天然
馬鹿系だ。余裕見せて挑発なんてキャラにあわない事させて、警戒させるのは避けたかっ
たからな。考えすぎかもしれないが、念を押したかった」
 「俺、そんな天然かな……」
 マナーは落ち込んでしょぼくれている相棒の肩を叩き。
 「安心しろ。彗夜よりはマシだ」

 「お前も二人殺したか。殺人ランキングでは負けねーからな」
 #7-76の頭からメスを抜いているマナーは心底つまらない顔をしている。
 「そんなもの、いらない。それより手伝えよ」
 「そろそろ大物コテ狙いたいなー」
 「黄色さんは大物じゃないのか」
 抜き取ったメスのゴミを掃除しながらマナーは言う
 「他がNBC氏に#4-6氏に駄っ文だ氏だぜ? しまらないたら、ありゃしねー」

  ―――なんだって

 「だからNBC氏に…って暇人!?」
 驚き振り向くそこには

 「そうか、お前がやったのか…」
 そこには体中をメスで飾った、化け物がいた。
 「し、しんでろよな、おっさん」
 「ふざけるなよ、ガキ」
 空気が冷えた。

 「叩かれたらピーピー引っ込んで!!誉められたらヘラヘラ出てきて!!俺が目指して
るコテ書き手とはそんなもんじゃねえ!!お前らとは全てが違う!!」




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