前奏曲「支給武器」






 ぱんぱん。ぱんぱんぱん。これはバッグを叩く音である。
(ズンパンじゃないですよ?)
 ぱんぱん。
(よし、大丈夫みたいですね?)
 02番:名無したちの挽歌は、ほっとため息をついた。
 もしも中身が、がさりと音を立てたなら。それはチップルだ。
 バコバコと軽い音がしたら、等身大ポップだ。ぶよぶよしてたら、もずくに違いない。
 そんなものをGetした日には、屋上で風を感じて早々と人生に幕を閉じるのも悪くないかもしれない。
(……いや嘘々。冗談ですよ?)
 ついでに言うと、妙に軽い場合はハズレが多い。フォークとかペンとか、そういう類のハズレだ。
 とりあえず、それなりに固くて、重い。傾向として悪くない。
(それでは、ご開帳と参りますか……)

『それでは、ご開帳と参りますか』
(あれ? 口に出したつもりはないですよ?)
 挽歌の思考と重なる声に、思わず耳を傾けてみる。
 口にされると、卑猥な感じのする言葉であるだけに、やばい気がした。

 その飄々とした口ぶりとは違ったワイルドな行動力でもって、声の方へと足音を消しつつ接近していく挽歌。
(あれですか? 噂の「。」嬢だとか、七連装嬢だとかが、今しもDQNのエジキってやつですか?)
 ちょっと違った意味でドキドキしながら、挽歌は巨木を見つけてよじのぼる。
 手馴れた様子でするすると登り、ちょうど声の真上あたりで挽歌が見たものは。
 ……ハートチップルだった。
(うわ、マジ!?w)
 思わず木から落ちそうになる挽歌であったが。なんとか、耐えた。
 声の発信源は、5番:111。
 彼はこれまでの一生にないほどの全速力で逃げ回った結果、あっという間に空腹に襲われてしまい、しかも
 支給武器がチップルという、ダブルパンチをくらってチップル開封という禁断の扉を開かずにはいられなく
 なってしまったのだ。
 彼はときどき、とことん無計画になるのだ。
「どうせ俺なんか、名無しコテや数字コテとかって分類で、林檎あたりに鼻で笑われて、終いにゃゴミクズのように
 殺されちまうんだ。だから、やりたいことをやれるうちにやるんだ!」

(……大きな、お世話ですよ。ちうか分類しないでくださいYO)
 ハカロワ名無しコテ代表とも言える、名無したちの挽歌が真上にいることも知らず、数字コテ代表111は叫んだ。
 ばり、と音を立ててチップルを開ける。
 今まさに異臭を発した、その刹那。

「ゲーーーーーーーーーーーーッツ!」

 御堂のような奇声を発して、飛び込んできた男がいた。36番:ダンディ坂野だ。
 彼は正気を失ったかのような凶暴な顔つきであったが、踊るように流れるように鉈を振るい111に襲いかかる。
「う、うわ!」
 動揺を隠さず悲鳴をあげつつも、なんとか初撃をかわし、無様に転がりながら距離をとる。
 二人の間に散乱したチップルを、躊躇なくばりばりと踏み潰し、ダンディが踏み込んでくる。。
「な、鉈だ!! お、俺のぶ、武器は!?」

(あなたの武器は、チップルですってば)
 111の慌てぶりに、思わずツッコミを入れる挽歌だったが、こうなると傍観者ではいられない。
 挽歌は基本的にノリはいい方だが、「とうっ」などと言って飛び降りることはできなかった。
(嫌われてもいい。飛び降りることはできない――って祐一っぽいですな。いや単に高いだけですが)
 馬鹿なことを考えながらも、挽歌は鞄を開ける。
 今から木を降りるより、支給武器に期待したほうが良い。
 じーこ。チャックを開く。
(……こ……これは……また、ですか?)
 それは、大きく分厚い――「本」であった。
 コミケのカタログでも、武器リストでもない。
 そう、あの「本」だ。
(ん? 「また」ってなんでしょうかね? デジャヴ? まあ、どうでもいいわけですが)

 ぽい。

(二階から投げ捨てろ、って感じですな)
 挽歌は惜しげもなく、その「本」を投げた。
 落下点には、ダンディがいた。

「……た、助かった……のか?」
 目の前で気絶したダンディ坂野を呆然と見つめながら、111はへたりこんだ。
(チップルまみれで、臭いですけどね)
 そんな111に、相変わらず挽歌のツッコミは厳しかった。

【02:名無したちの挽歌 「本」を捨てる】
【05:111 ハートチップルを開封するが散乱】
【36:ダンディ坂野 支給武器は鉈。「本」の直撃を受けて気絶】



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