蜘蛛の糸






 その日も俺はいつもと変わらない毎日を過ごしていた。
 いつものように起き、いつものように仕事を行い、いつものように家に帰る、そんな繰り返しの毎日。
 無限地獄ともいえるそんな日々に俺は退屈していた。
「なんかおもしれー事ねーかなー」
 ふとつぶやいて苦笑する。あるわけがない、いまここでこうやって退屈していることが何もないことの証拠だ。
 そんなくだらないことを考えた後、結局いつものようにPCを立ち上げ、ネットに接続する。
 そしていつものように葉鍵板を開いたとき、一番上に見慣れないスレッドがあることに気づいた。

 1:★☆★☆コテハンバトルロワイアル★☆★☆ (1)

 またバトロワネタかよ、そう思いつつスレを開く。
 あの日、あのスレでSSを書いて以来、俺はSS系のスレッドはこまめにチェックするようになっていた。
 開かれたスレにはアドレスがひとつ記載されていた。内容はそれで終わり。
 また荒らしの立てたクソスレかよと思いつつ、なぜか俺はそのアドレスをクリックしていた。
 俺はそのときなにかを感じていたのだろう、普段ならこんなことはしない。
 もしかしたらそれは第六感と呼ばれる危険察知能力なのかもしれない、と後で思った。
 だがそのときの俺はそんなことは思いもせず、アドレスの先が気になっていた。

 タイトルもない殺風景なホームページ、そこにある数行の文章を見ると俺の興味は一瞬で失なわれた。
『殺し合いのルール、コテロワ編』
 結局このネタかよと思いつつも暇だったので律儀にルールに目を通す。
 内容はそこらにあるバトロワネタと同じ。無人島で不特定多数の人間が生き残るために殺し合いをするというもの。
 無駄足だったと思いつつページを閉じようとしたときに最後の一行が目に入った。
『すでに40人は捕獲している、残りは10人ほどだ』
 おかしかった。普通のネタ小説ならこんな事は書かずにはじめからフルメンバーをそろえるはずだ。
 だがそんな考えはすぐに消え去ることとなった。そこにあるのは人物のリスト、ただそれだけ。
 しかし俺の興味を引いたのはそのリストに記載されている名前。俺は思わず一人一人の名前をつぶやいていた。
「命 名無したちの挽歌 。 L.A.R 111……」
 どれも見知った名前、葉鍵ロワイアルというリレー小説に関わったメンバー。その名前の横には『済』をいう文字。
 そして40人並んだリストの下には『ハカロワに関わった人間は一人も逃しはしない』という文と、10人のハンドルネームが記載されていた。
『zin 真空パック いつか 189 #7-76 ALFO ないしょ 独活大樹 JOYH-TV 花と名無したん』
 それは普通なら気づかないほど些細な面子だった。
 なぜなら彼らは先に記載された40人と比べるとあまりにちっぽけな存在、ハカロワに関わったといってもほんの1話くらいのことだからだ。

 よく調べてるなと思いつつ、俺は先程の文章を思い出した。
『すでに40人は捕獲している、残りは10人ほどだ』
 まさかな、いくらなんでもそんなことあるわけないだろう。必死になって頭に浮かんだ考えを打ち消す。
 そんな時、不意に電話が鳴る。とっさの出来事に心拍数を激増させながら、電話に出る。
「もしもし」
「……さんですね、実はあなた……に選ばれ……招待……」
 雑音が多く、聞き取りにくい。だが内容からすると何かの勧誘のようだったので結構だと断りを入れる。
「いえ、そういうわけにはいきません」
 あれだけあったノイズの中、その言葉だけははっきり聞き取れた。
「え?」
 聞き返した瞬間、鍵が掛けてあったはずのドアは開かれ、室内に煙が充満する。
 その煙を吸い込むと、激しい睡魔に襲われた。
 そして薄れ行く意識の中で俺が最後に目にしたのは、自分のハンドルネームが記載されている9名の名前だった。
【zin 真空パック 189 #7-76 ALFO ないしょ 独活大樹 JOYH-TV 花と名無したん、捕獲完了】



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