いつもここから?
歌だ。
歌が聞こえる。
その歌は、はじめは微かな囁きのような声にしか聞こえなかった。
だが、彼女……32番:quitが近づくにつれて聞こえる声は大きくなっていく。
「誰やのん、こんなけったいな島で歌なんち歌いくさっとぉ奴……?」
やがて、quitはその場所へたどり着いた。歌は目の前の洞窟から相変わらず聞こえてくる。
quitは、耳を澄ませた。
洞窟の中に、誰がいるのか。そして何を歌っているのか。
……生き延びるために、その歌の主と、どう接するべきか、あるいは……逃げるか。
聞こえる。
歌が聞こえる。
「俺の名前は祐一♪」
「俺の名前は浩平♪」
『二人合わせて祐一&浩平だ♪ 君と俺とで祐一&浩平だ♪』
「小さなロリから」
「大きな胸まで」
『萌やせる力だ葉鍵ロワイアル〜♪』
quitはこけた。全身全霊を持ってしても、その衝動には逆らえなかった。
だが洞窟の中から聞こえる二人分の声は、そんな彼女に気づいた様子もなくネタを続けた。
「悲しいときー」
「悲しいときー」
「浩平一人を、――こいつが『祐一&浩平』です――、って言って俺だけ逃げようとしたら、
浩平も俺を指差して、全く同じことを同時に言ってしまったときー」
「悲しいときー」
「悲しいときー」
「二人一組だからって、片方が死ぬともう一方も爆発する一蓮托生の首輪にされたときー」
「悲しいときー」
「悲しいときー」
「二人いるのに、一人分の水と食料と配布武器しかもらえなかったときー」
「悲しいときー」
「悲しいときー」
「みんなで行った」
「千葉! 滋賀! 佐賀!」
再びこけるquit。笑える余裕はないが、こける余裕はあるということだろうか。
だが、大人しく考えている時間はないらしい。
二度もこけるとさすがに洞窟の中にいる(と思われる)二人に気づかれたらしい。
「どうやら、ネタが受けたようだぞ、浩平」
「流石だよな俺ら」
三度目のこけは、草の根をえぐった後の土の味がした。
【09:祐一&浩平 ミラクル・ボーイズ】
【32:quit こけ気質】
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