覚悟完了
俺が目覚めたのは窓のない広い部屋。いや、部屋というよりは何かのホールといった感じだった。
辺りを見回す、そこには9人の男女、もっとも1人は首と胴が離れていたので正確には8人と一つの死体というべきか。
状況を整理する、たしか変な連中に襲われたはずだ、そこまでは覚えている。そして気づいたらここにいた。
結局は何もわからないって事か、俺は思わず舌打ちしていた。
そんな感じで状況を整理していると、俺の周りではすでに何人かが目覚めたらしく、集まって話をしている。だが俺はそんな気には到底なれなかった。
そうこうしているうち、男が部屋に入ってきた。
男の顔には見覚えがあった、人の顔を覚えるのが苦手な俺が知っているのは2通りの人間しかいない、身内か有名人かだ。
そして入ってきた男は後者、すなわち有名人だ。
まだ完全にはっきりしない意識を総動員して顔と名前を一致させる、俺の記憶違いでなければそこにいるのは下川直哉、つまりはLeafの代表だ。
なぜこんなところにLeafの代表が? 思わず下川の顔を見つめる。と、下川と目が合う。すると下川はニヤリと笑い、声をあげた。
「気持ちよく寝てるところスマンが、とっとと起きろや。こっちも忙しい身なんでな」
この声を合図に残りの人間が起き出す。そして(死体以外の)全員が起きると、下川の説明が始まった。
説明を要約するとこうだ。ここは絶海の孤島で俺達はハカロワに関わってしまったためここに集められた。
そしてこの島で行われるのは当然、殺し合いだ。参加者は50人。いや、すでに1人は死んでるから49人か。
ここにいる9人以外の40人はすでに出発したらしい。
そんなくだらない説明を聞いた後、前の奴に続き、俺も出発した。
ホールを出て15分ほど歩いたころ、前方の茂みが揺れた。俺は躊躇なく腰の銃を構える。
震えてはいない、普通の奴なら人を殺すということに対する良心の呵責などで恐怖するのだろう。だが俺にそれはなかった、
別に他人がどれだけ死のうが知ったこっちゃない。俺が生き残るのに必要なら死んでもらうだけの事、ただそれだけの事だった。
茂みの揺れが大きくなる、俺は引き金に掛けた指に力を入れる。だが弾丸が発射される寸前、茂みから声がした。
「待ってください! わたしは戦う気はありません!」
そして茂みから現れたのはセーラー服の女、どちらかといえば可愛い部類に入るだろうか。
この光景にアンバランスな服装の彼女に少々驚きつつも、俺は銃を構えつづけた。
構えを説いた瞬間にズドン、なんてのは十分に考えられる、このゲームは相手を信じたほうが負けだ。
そんな俺の考えを読んだわけではないのだろうが、彼女はバッグを足元に下ろし、両手を上げる。数秒の沈黙の後、俺は銃を下げた。
「話を聞いてくれるんですね、よかった。わたしはzin、あなたは?」
「真空パックです」
俺はそっけなく返す。構えを解いたとはいえ油断できない。だか彼女は安心したのか話を続ける。
「あの、提案なんですが、いっしょに行動しませんか?」
俺の時間が一瞬止まる、何を考えてるんだこの女は? 今会ったばかりの見ず知らずの、それも場合によっては自分を殺そうとした奴といっしょに行動?
俺とお前が? 冗談じゃない、こんなイカレた奴をつれてるとこっちまで巻き添えを食いかねない。
だが次の瞬間に俺は考えを改めた。確かに現状じゃ1人より2人のほうがなにかと都合がいい。しかも相方が女性なら何かと友好的な輩も増えるだろう。
彼女の本心がどこにあるのかは知らないが、気を付けていればそう簡単に背中を狙われることもないだろう。そして俺は答えを出す。
「そうですね、そのほうが便利でしょうし。とりあえずここじゃなんですから移動しませんか?」
彼女と出会った場所から少し移動した木陰で彼女と話す。どうやら彼女は争いごとが嫌いなようだ。
甘いことで。そんなことでよくこの社会を生き抜いてこられたものだ。
「でもいくら戦わないよう説得したとしても、向こうが話を聞いてくれないんじゃ意味がないんじゃないですか?」
「そうですよね、でもみんなやさしそうな人達だったし、話せばきっとわかってくれます」
間違いない、この女は馬鹿だ、しかも相当に平和ボケした。話せばわかる? 世界がそんな人間ばかりなら戦争なんて起こってねえよ。
「ところであなたの支給武器は?」
彼女の話をこれ以上聞いてると頭がどうにかなりそうだったので強引に話を切り替える。
「え? あ、これです」
彼女は電子手帳のようなものを取り出す。
「これは……探知機ですか?」
聞きながら探知機を受け取る、液晶の中心に2つの光点、他に反応はない。
「そうみたいですね。そういえばあなたの武器は?」
俺は腰の銃を彼女に見せる、側面にS.T.A.R.Sの刻印がされているベレッタM92F改。俗にサムライエッジと呼ばれるものだった。
「へー、銃って意外と大きいんですね」
のんきな事を言いつつ彼女は木に背を預ける。どうやらここで眠るらしい。
「2時間経ったら起こしてくださいね」
そう言って彼女は目を閉じる、どうやら俺の都合はお構いなしらしい。永遠に起きないようにしてやろうかとも思ったがやめておいた。
横で寝息を立てている彼女を見る、コイツがいれば参加者の数割は敵にはならない、それだけで生存確立はグッとあがる。うまく行けば仲間も増えるだろう。
ま、鬱陶しいのが難点だがせいぜい利用させてもらうぜ、最後に俺が生き残るために。
俺は決して他人を信用しない、信じれば裏切られる。信用できるのは自分だけ。
俺は今までも、そしてこれからもそうやって生きていく。それが俺の唯一にして絶対の覚悟だった。
【41:zin 探知機所持】
【42:真空パック サムライエッジ所持】
前話
目次
次話