ふぅ






 ……ふぅ。

 ぼんやりと、これからの事を考える。
 自分の右手にはベレッタM92Fがあって。
 自分の左手にはすやすやと眠る少女のカラダが……
 いかんいかん。イケナイ方向に行ってしまうところだった。

 とりあえず自分たちは、先ほどまで隠れていたところの隣の民家に隠れている。
 大丈夫だとは思うが、自分が思い切りドアを蹴破った音が誰かに聞かれていたかもしれないからだ。
 幸い、暫く時間は経過したが、誰かが現れる様子はない。
 こっちの民家には正真正銘誰も居ないし、暫しの間ならくつろぐ事も出来るだろう。

 自分の左手に抱かれ眠る、彼女……彗夜嬢(「たん」はねえよな、我ながら)の姿が目に入る。
 こうしている今でも、どこか信じられないというか、これは夢かなんかじゃないかとも思う。
 これまで彗夜嬢は、感想スレ、懐かしむスレ、終いにはコテハンロワイアルとかいうモノでまで、
 様々なスレッドで悪役扱いされて来た。彼女の小さな肩に背負うには、それは余りにも大きすぎただろう。
 だが彼女は挫けなかった。それは立派だと思う。凄いと思う。対戦表やら何やら全部放り投げた自分とはエライ違いゲフンゲフン。

 そういやコテハンロワイアル、あったなあ。あれも結局未完だったけど。それも自分の所為だよなあ……。
 まさかそれが舞台を変えて、紙媒体どころか本当に自分の命を賭けたモノになるとは。
 ……やっぱ夢なんじゃねえかな、これ。頬をつねってみる。痛い。

 ……ふぅ。

 彗夜嬢の対人関係のことを考える。
 取り敢えず、絶対に会わせたくないのがL.A.R.氏。茜の恨みは根強い、かもしれない。
 てっきり男だと思っていたであろう彗夜嬢の本当の姿を見たら許してくれる可能性も……ないかなぁ。
 挽歌氏も表面上は兎も角、場所が場所だ。教会編の恨みつらみをぶつけてくる可能性がある。
 むぅ、あまり状況は芳しくないなあ。
 逆に会わせても大丈夫な人を考えてみるか。
 ……………………
 ………………
 …………
 ……ふぅ。

 まあ、何だ。いざとなったら自分が頑張ればいい。それだけだ。
 ふと思ったことを口に出してみる。実は一度言ってみたかった台詞だ。
「人類全てが君の敵に回っても僕だけは君の味方さ……」
「……………………」
 はぁぅっ!
 いつの間にか彗夜嬢が目を見開き、自分の方をじっ、と見つめている。
 ききききき、聞かれたよなぁ、やっぱり。
 思わず衝動的に;y=ー(゚∀゚)・∵.ターンとやってしまいたくなるが、何とか踏みとどまる。
 おおお落ち着け。こういう時は深呼吸深呼吸だ。
 すーはーすーはーすーはーすーはー…………

 ……ふぅ。

「あの……」
「ぐわぁっ!」
 やっぱりあんな台詞聞かれておいて落ち着くなんて無理無理無理だって!
 あぁ、視線が痛いでも何だか嬢の頬はほんのりと赤みを帯びているように見えてもしかしてこれはもしかするの?
「あの……どうしたんですか?」
 どうしたもこうしたも自分はもう駄目であります!気恥ずかしさで顔面ファイヤーであります!
 ……って、え?
「聞いて、なかった?」
「何をですか?」
 神様アリガトウ!あんな台詞素面で言ったと知れたら自分の人生最大の汚点になるところダッタヨ!
「ああいや、まあいいんだ。それより、なんだい?」
 いいお兄さん、といった役どころを意識して話しかける。
「いえ、あの、疲れているなら、見張り変わりましょうか?私は十分寝ましたし……」
 ああ、そういえば、無駄な思考をしたりした所為かどっと疲れた。
 彼女ひとりで見張りをさせる、というのは少々危ない気もしたが、家の前の通りを人が通った気配は無いし、大丈夫だろう。
「うん、じゃあ悪いけど、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「はい、私がしっかり見張ってますから、たっぷり寝ちゃって下さいね」
 その言葉を聞いて横になると、あっという間に睡魔が押し寄せてきた。あぁ、いろいろと疲れたからなあ。
 そして、薄れてゆく意識の中、自分は、
「ホントはちゃんと聞こえてましたよ」
 といった声を聞いた気がしたが、その言葉は誰が発したものなのかも、その言葉がどういった意味合いを持っているのかも理解する前に、自分は深く深く眠った。

  【#3-174・彗夜…先ほどまでの隣の民家に潜伏】



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