NG覚悟で
今晩は、いやお早う?今日は?ええい、時間なんかどうでもいい。
とにかく自分、#3-174は只今、こっそりと薄暗い家の中にその身を潜めております。
時計は取り外されており、いや、元々掛けられていなかったのでしょう。
暗闇でじっとしている自分は外の光を確認することも出来ず、時間も把握できないというわけです。
さて、自分がこのようにこっそりひっそりと人を避けているのには一応の理由がありまして。
自分はキャラが薄い。自ら言うのもなんだが。だって仕方ねえだろ、名無しで書いてたんだから。
そんな自分が挽歌氏やL.A.R.氏、「。」嬢やにいむら氏のような濃い面々の前に出てみろ。
イイ具合に使い捨てされて、結局殺されるオチに決まってる。それが影薄い人間の、脇役の宿命ってものだ。
そう、自分は主役じゃない。どうひっくり返っても、挽歌氏のように大きな人間になることも、
にいむら氏のようにブチ切れた人間になることも出来ない。
だから、華々しく活躍しなくてもいい、出来るなら最後らへんまでここでじっ、としていたいものだけど――
やっぱりそう上手くはいかないもんだよなあ。
さっきからごとごとごとごとと、隣の部屋が騒がしい。
まったく、住宅の数だって決して少なくないっていうのに、どうしてこう運が悪いのやら。
幸い、隣の部屋の人物はまだこちらの存在に気付いてはいないようだ。極力存在感を消していたからな。
とはいえ、いつバレるかという不安感の中でここに留まるのはなかなか辛いものがある。
さしあたって選択肢は三つ。
1.何とかこの家から脱出し、新しい隠れ家を探す
2.先手必勝。気付かれる前に隣の部屋の人間を殺る
3.敢えてこのままじっと息を潜め耐える
このどれかを選び、早急に行動に移さねばならない……はて。
そういえば自分の武器をまだ確認していなかった。
全くなんという失態だろうか。
隣に置き捨てたデイパックのファスナーを、音を立てないように、慎重に開く。
中身を確認した瞬間、心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走った。
なんてこった、当たりだ。
本当に自分にこんな武器を与えていいのか、いいんですか?
手にとってみる。うん、拳銃。ベレッタM92F、だと思う。
種類は間違えているかもしれないが、銃であることに間違いはない。
何人居たかは忘れたが、半分以上の人間が銃を持たされているとしても、いや、99%の人間が銃を持たされたとしても、
自分だけは見事に銃ではない支給品を引く自信があったので、正直どうすればいいんだ。
……何にせよ、自分は銃を引き当て、今それを持っている。
これがあれば、もしかしたら自分も本家で言う桐山並み、とまでは行かないが、それなりに目立つことが……出来るだろうか?
いやまて、欲を出すのはいかん。生き延びてこそだろう。
生き延びる?隠れるだけで生き残れるかよ。確かに削りあいで他の奴らは消耗していくかもしれないが、
同時に他人の武器を奪うことで装備も充実させていってるんだぜ?行くしかないんだよ。
今なら間に合う、武器ならお前の手の中にあるだろう。
二人の自分が自分に囁きかける。ああややこしい。
深呼吸をひとつ、する。それで腹は決まった。
自分は、このゲームに、乗る。
地味に忘れられるより、華々しく散る、そんな人間に、自分はなりたい。
だから、先ずは。隣の部屋の、誰かを、殺る。
ゆっくりと、本当にゆっくりと、立ち上がる。音は立てるな。気づかれないように、静かに殺すんだ。
部屋を出て、冷え切った廊下を歩く。窓の一つもない、相変わらず昼か夜かも分からない。
徐々に徐々に、誰かがいる部屋へと近づく。一歩ごとに、心臓がひときわ高く鳴る。この音で気づかれはしないだろうか。
そして、遂に、自分は、ドアの前に、立つ。運命の瞬間だ。このドアを開けたら後戻りは出来ないぞ。
もう一回、大きく息を吐いた。
銃を構え、一気にドアを蹴り開ける。
相手の姿を確認したら、それで…………
「きゃあっ!ご、ごめんなさい、どうか殺さないでください!」
は。
部屋の隅で、ガタガタと震えている、小さな、ほんとに小さな、女の子がひとり。
というかオイ、このヒトホントにハカロワに関わってたんですか?だってどうみてもじゅうはっさいいk
いやいやいやいや、これ以上は何故か言ってはいけない気がする。そんなわけない、うん、そんなわけない。
怯えてうずくまるその子に、そっと近づき、優しく問い掛ける。
「お嬢さん、お名前は?」
「あっ、あのっ、私は……」
その名前を聞いた瞬間、時が止まった。
「……え?も、もう一度」
はっきり聞こえた。これ以上ないくらいにはっきり聞こえたが、聞き返さずには居られなかった。
「す、彗夜です……」
「…………」
「……」
待てーーーーーっ!待て待て待て待て!聞いてないって!
彗夜氏がこんな……え?マジで?ちょ、ド、ドッキリだよね、これ?
「ドッキリなんかじゃありません!私、本当に、彗夜です……ハカロワの時はあんな文体だったけど、
それは他の人に見下されないようにって……必死で男らしく振舞って……」
涙ながらに語る、自称彗夜氏。嘘は言ってないんじゃないかと思う。
そう思う理由もある。いつだったか、彗夜氏はこんな発言をしていた。「制服がきつい」と。
そして今自分の目の前にいる彼女。顔つきはまだ幼さが残っているが、ひとつだけ成熟している部分がある。
言うまでもなく……胸だ。そりゃ制服もキツイさ!いやあ納得!
「……どこ見てるんですか」
その言葉にはっと我にかえる。いやしかし、まさか彗夜氏がネナベだったとは……参った。
しかし、自分のやる事は既に決まっているのだ。
彗夜氏の肩に両の手を置き、告げる。
「大丈夫、君を守る方法は自分が知っている。自分に任せろ」
殺し合いに乗る?知ったこっちゃないよ。自分は彗夜氏、もとい彗夜たんを守る!
それは、どうしようもないくらいイイ笑顔だった。
【38:#3-174 所持武器:ベレッタM92F・彗夜と合流】
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