その名は…






(相手はサブマシンガンと得体の知れない火炎放射器、こっちは武器と呼べるものは一切無し、せいぜい傘の先端でうまく喉を突ければ致命傷に出来る、程度だ。
しかも、左腕に一撃食らってる。やれやれ、踏んだり蹴ったりだな。ただ、救いがあるとすれば…傘が防弾処理がしてあるってとこだけだな。まあ、何発耐え切れるか、正直わからねえが…)
L.A.R.は絶望のなかでも驚くほどに冷静に生き残るための算段をつけはじめていた
(障害物の多いところなら『。』のサブマシンガンは威力を殺げる、走って森の中にでも逃げ込めば、上手く彗夜と分断できるかもしれない…そこで、各個撃破できれば…)
撃破
そうだ、今の状況では殺さなければこちらが殺される。つい数時間前に救った命を、自分の手で葬るのだ
(ち…何を感傷的になってやがるんだ。殺さなければ殺される、そして俺は…まだ死ぬつもりはない)
そこで、L.A.R.の思考する時間は終わった
「わかったよ、僕の『。』嬢。こいつを…殺せばいいんだね」
「そうよ…何度も言わせないで」
狂気の――いや、狂喜だろうか?――笑みを浮かべた彗夜が、ナイフを手に近寄ってくる
(森まで数百メートル、やるしかない!!)
横に飛び、『。』との直線上に彗夜の体を置くと同時に、先ほどまでL.A.R.の立っていた場所にイングラムの弾が降り注ぐ
暫くは味方になる相手を間に挟み、ためらった『。』の銃弾の雨が止み――
その隙に、L.A.R.は二人に背を向け、全力疾走で手近な森へ向かい駆け出していた
「追うわよ」
ただ冷たくそう一言告げると、『。』はL.A.R.を追い駆け出す
「くっくっく、わかってるよ『。』嬢。あの男は僕が殺す。キミの手をあの男の汚い血で汚したくは無いからね」
そして彗夜はそれさえあっという間に追い越すほどの速さでL.A.R.を追跡しはじめた

L.A.R.には、二つの幸運と一つの不幸があった
一つは『。』が駆けながら正確な銃撃を出来ない小柄な少女であったこと
もう一つは、彗夜が比較的に近距離用の武器しか持って居なかったこと
そして不幸だったのは…左腕を撃たれていたせいで、動くたびに常時に数倍する体力を消耗していったこと
二つの幸運のおかげでL.A.R.が森に辿り着いた時には、彼の体力は限界に達していた
(くそっ、足がふらついてきやがった!こんなことなら普段から鍛えとくんだった…!)
「ほらほら、もう逃げないのかい?」
背後数メートルに近づいた彗夜の顔は、まるで兎狩りを楽しむような余裕があった
「うるせーよロリコン、これから茜をおとしめた手前をブっ倒す算段立ててるんだ、余裕こいてると死ぬぜ?」
口では強がっているが、すでにL.A.R.の体から流れる血は、手当てもせずに無視出来ない量になっていた
だが、すでに彗夜はあと数歩の位置に立っている。痛む体に鞭打ってでもL.A.R.は逃げ出すか戦うかしなければならなかった
しかし…どちらの選択も、今のL.A.R.には難しかった

「本当は『。』嬢が来てから殺したかったんだけど、逃げ切られると困るからね」
(…『。』は追ってきていないのか?そういえば、最初以外に銃撃がまったく無かった…)
「だから、そろそろ死ね」
何の感慨も持たない顔でスイッチを押した彗夜の胸から炎が吹き出す
「くそぉっ!!!」
傘で炎そのものは防いだが、その勢いに押し負かされ、L.A.R.の体が中を舞う
木の幹に体が叩きつけられて、ばき、と体から嫌な音がした
「が、は…っ!!」
むせたひょうしに、ぼとぼとと口から血反吐が流れ落ちる
体中から激痛が走り、立ち上がって逃げようにも体がまったく動かなかった
(畜生っ!こんなところで…終わりかよ…っ!!)
「さあ、『。』嬢。これでこいつは死んだよ」
彗夜が逆手に持ったナイフをL.A.R.の体に突き刺そうと振り上げたその時
「ライダァァァァ!キィィィィック!!!」
「がっ!?」
横合いから疾風の如く現れた一つの影が彗夜の体を蹴り飛ばした
人影はL.A.R.をかばう様に倒れ伏した彗夜に向き直ると、ファイティングポーズを取る
「…大丈夫か?」
男がL.A.R.のほうを肩越しに振り返る
体のあちこちから出血があるが、そのことを差し引いても男の体はある種の力強さに溢れていた
そして、頭に被ったドクロの描かれたヘルメット
「あ、あんた誰だ…?」
L.A.R.の問いに、ドクロが笑った気がした
「正義……仮面ライダー」



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