ヘタ霊――その思考
「これは酷いね……」
半ば呆然とヘタ霊は呟いた。
学校の正面から近づくのは危険と見て、背面の雑木林から接近していた彼が見たのは突然の閃光。
そしてそれに引き裂かれた学校の姿だった。
昼間はこの島の中である意味威容を誇っていたそれは、砂上の楼閣より頼りない姿を晒している。
夜の闇の中で響くギシギシという音は今にも崩れそうな学校の悲鳴のように聞こえた。
「参ったな…」
学校の狙撃手がマーダーである以上、友好的に話を進める事は不可能に近い。
密かに忍び込み、隙をついて武器を奪うなり何なりしてから話を進めるつもりだった。
しかし、その目論見はこのある意味非常識ともいえる攻撃で完全に軌道修正せざるを得なくなった。
「………さて、多分彼女はまだ学校の中だろう…行くかね」
そう言いながら、彼の心は重い。
じっとりと銃を持った手が汗ばんでいるのが解る。
ぶるっと体が震える。
この攻撃で彼女の警戒度は間違いなく上がっているだろうし、最悪自分とは別の侵入者と戦闘に入っているかもしれない。
そんな状況の学校に足を踏み入れ彼女を捕まえるとなると―――不可能に近い。
むしろ自分が巻き込まれて死ぬ可能性の方が高いのではないか?
「……駄目だな」
そこまで考えて、彼はその思考を頭の片隅に放り投げた。
思考のループに陥り、恐怖に潰される事は、この島で最も危険な事だ。
それならば、まだ思考をある程度停止した方が良いように思えた。
(…とりあえず、学校には入る。中を調べて連れて行けそうだったら連れて行く。無理ならば……深追いはしない)
楽観的思考だ…と思いつつもそれだけを頭の中で纏める。
そして、彼はもう寿命の尽きつつある学校に足を踏み入れた。
パラパラ、という音がまるで学校が自分の道連れを求めているようにヘタ霊には聞こえた―――
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