学校崩壊






「ふぅ…」
 学校の3階にある家庭科室の中、フライパンの上でホットケーキが出来上がっていく。
 小麦粉の焼ける香ばしい匂いが鼻をくすぐり、食欲をそそる。
 こういう事をしていると、この殺し合いの中でも日常を思い出す―――とそこで一つ日向葵は苦笑した。
 つい先ほど人をライフルで撃っておいて、随分と落ち着いた物だ。
 元々、自分の中に暗黒面があることは知っていたが、ここまでとは思っていなかった。
「そろそろいい頃合ね」
 程よく焼けたホットケーキを見て、フライパンを引っくり返す。
 とりあえずここに居れば食料や水には不自由しない。
 そう簡単に進入できないようになっている上、結構な数の罠も仕掛けてある。
 まぁ、3日目になって参加者が残っていた場合は出ざるを得ないだろうが、それまでは篭城していよう。

 ヴィ…ヴィ…ヴィ…

 何か音が聞こえる。
 最初は虫の音か……とも思ったが、どうやら違うようだ。
 何かの機械音のようにも聞こえるが。
「………?」
 少々気になって、とりあえずコンロの火を消し、廊下に出てみる。

 ヴィーン…ヴィーン…ヴィーン

(外…昇降口の方から……?)
 何の音か…と思い窓から外を見やる。
 暗闇の中、一つの光が見える。
 どうやら、それが音の発生源のようだ。
 良く目をこらして見る、だんだんと闇に目が慣れてきて―――
(な―――!!?)
 日向葵は絶句した。
 そこでは、男が股間に巨大な砲塔を付け、上下運動を繰り返していたのだから。

(あ……あれは、まさか中華キャノン―――!?)

 ドガァァーーーーーーンッ!! 

 記憶から、その武器の名前を引っ張り出した瞬間、地面が揺れた。
 膨大なエネルギー波が、学校に突き刺さる
 しかも、1階、2階と段々上がってくる。
 まさか、このまま学校を真っ二つにする気か―――!?
 そう思った瞬間、彼女の足元の地面が熱で膨れ上がる。
(まずいっ!)

 ズガァァァァーーーーーーーーッ!! 

 咄嗟に床を蹴り地面に転がったのと、彼女が今まで居た地点がビームによって焼き払われたのはほぼ同時だった。
 そして、彼女はそのままビームが3階天井を貫くのを呆然と眺めていた―――。


 一方、学校の外、マグナムシイ原コンビは―――
「…何か、凄い事になっちゃったね」
「ああ…」
 真っ二つになった学校を、こちらも半ば呆然と見つめていた。

 結局、最初ゴネていたシイ原もマグナムの案を承諾した。
 自分がこの女と組んだのはこの島で生き残る為であったから。
 ある程度の―――そう思わなきゃやってられんという事でそう思う事にした―――事は仕方ない。

 そして、チャージが完了していざ発射、という時にそれは起こった。
 シイ原が負った足の怪我がチャージの負荷で開いたのだ。
 そして、傷を負った足では発射の反動に耐え切れず、シイ原が後ろに倒れたのだ。
 それでも、何とかキャノンは手放さなかったので自爆という不名誉の結果は避けられたが。
 結果が目の前の真っ二つにされた校舎だった。 

 その上、学校を真っ二つにした後も天に向かって無駄なエネルギーを吐き出し続けた
 ようやく止まった時には中華キャノンは使用不能という惨状だ。

「で…、中華キャノンと地面の板ばさみはどうだった?」
「あやうく不能になる所だったぜ…」
「怖いねぇ〜……さて、と…」 
 マグナムが立ち上がる、手には例の箱と、中華包丁。
 先ほどの中華キャノンで、まさか死んだとは
「君は、その足じゃろくに動けないでしょ? 少し隠れてなよ」
「いいのか?」
「今まで君ばっかり戦ってたからね。たまには、私も働かないと不公平でしょ?」
「ま、そうだがな……」
 普通なら歓迎すべき提案なのだろうが、シイ原は素直には喜べなかった。 
 それは、マグナムの口調がまるでゲームを楽しんでるように感じられたから。
(…さてさて、今回はいいが…何時まであの女と付き合うべきか…)
 学校の方に消えていくマグナムを見やりながら、シイ原はそう思わざるを得なかった―――。

【中華キャノン〜使用不能】



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