「。」の悩みとL.A.Rの粥
「遅くなったな、持って来たぞ」
「あ……ありがとうございます」
出て行ってから約2時間、L.A.Rが盆の上にかゆを持ってきて入ってくる。
その時にはすでに涙を拭っていた「。」は取りあえず笑みを向けてそれを迎える一方、考えを巡らせた。
これからどうするか。
コルト・ガバメントを手に持っていたのが幸いしたのだろう。
寝ている間に鞄を改められる事は無かったらしい。
自分の支給武器はその拳銃だった―――としておく。
倒れるという予想外のアクシデントはあった物の、誰かの庇護下に入れたのは幸いだ。
自分の正体もまだ知られていない。
しばらくは彼の庇護の下で疲れを癒そう。
そう、予定通り―――。
でも、何故だろうか。
予定通りなのに、こんなに心が痛むのは。
人を殺す事、騙す事のは仕方ないと思ってる自分が居る一方で、もう人を殺したくないと思う自分が居る
先ほどの夢のせいか、心身が衰弱したのが原因かもしれない。
こんな事で、私はまた人を殺せるのか―――?
まぁ、とりあえずまずは食事を取ろうとかゆを手に取る。
米に対して水が多いような気がする。
「食べやすいように五分がゆにしてくれたんですか?」
「……水を入れ過ぎただけだが…なるほど、そういうのは五分がゆというのか」
「そ、そうですか…、それじゃ頂きます」
匙に取って口にはこぶ……甘い。
「ど、独創的な味付けですね、とても甘くて」
「……それは多分、塩と砂糖を入れ間違えたんだ」
「………」
「………」
気まずくて沈黙が間に落ちる。
ここは何とか機嫌をとって置くべきだろう、と「。」は口を開いた。
「で、でも、美味しいですよ? うん」
「……本当か?」
「え、ええ、とっても」
それを聞くと、L.A.Rは溜息一つついて立ち上がる
「……作り直してくる」
「え、だ、大丈夫ですよ。ボクこの位なら何でもないです」
「大丈夫という奴程、大丈夫じゃないんだ、こういう場合」
……まぁ、間違ってはいないが、それなら最初から成功するまで持ってこなきゃいいのに、とも思う。
まさか。
「…もしかして、何度も作り直して一番上手くできたのがこれだった…って訳じゃないですよね?」
L.A.Rの肩がビクっと震える。
……どうやら図星だったらしい。
一体、前に作った物がどんなだか聞いてみたい気がしたが、怖いのでやめて置いた。
(……もしかして、彼って……)
きつい口調と、近寄りがたい雰囲気で騙されてたが、案外抜けてる人なのではないか、彼は。
まぁ、倒れていた自分を助けたのだ、実はやさしい人なのでは…とは思っていたが。
と、人物考察は程々にしておいて、「。」は立ち上がってL.A.Rの横に並ぶ。
「私も手伝います」
「いや、いい。こんな事に人の手を借りられるか」
「……次持ってくるまで、一体何時間かかるか解らないじゃないですか」
「……うっ…、じゃあ、手伝ってくれ」
自分で作れ、と言わないのは彼の優しさか、矜持か。多分両方だろう。
こんな島でそんな事にこだわる彼を羨ましいと思う自分が居る。
自分がそう思った事が、彼女には、意外で、可笑しくて、そして悲しかった。
前話
目次
次話