学校へ






「なるほど、こういう武器か……これは」
「すげぇな…」
 大木に、一本の巨大な杭が突き刺さっている。
 細長い箱を脇に脇に抱えた七連装ビッグマグナムと、様子を見ていたシイ原の声には少なからず驚きと感嘆がこもっている。
 学校前で狙撃を受けたカップルの装備を回収した2人は雑木林の中でその性能を確かめていた。
 片方の鞄に入っていたのは、単なる拡声器だったが、もう一つの細長い箱は、巨大な杭打ち機。
 恐らく支給武器の中でも最強クラスの代物だった。

「しかし、何でこんな武器を持ってて殺し合いに乗らなかったのかね、あの2人は」
「……優しい人達だったんじゃないかな?」
「優しい……ね」
 まぁ、確かにあの2人は見てて微笑ましい程ラブラブだったが。
 こんな武器を持っていてなおゲームに乗らないという事にシイ原はいささか理解に苦しんで首を振る。
(俺にはマネできない芸当だな……、まぁ、だからこそラブラブだったのかもしれないが)

「さて、日も沈んだし、武器も回収した……そろそろ学校に行こうか?」
「ああ……」
「もし、学校に居る人間がこれを目当てに出てくるような人間なら、待ち伏せで簡単に殺せたんだけどね。」
(……さらっと怖い事言うなよな)
 実際の所、日が出てる間は雑木林から武器の様子を伺い、学校から狙撃手が出てくれば襲撃する予定だったのだが。
 そこまで敵も浅はかでは無い、という事か。

「ああ……そうそう、これ、貴方にあげるよ、どーせ私は使わないし」
 そう言って彼女が投げ渡したのは、中華キャノン。
「ああ、悪いな」
 流石に女性であるマグナムが使うのは気が引けるのだろう。
 せっかくの申し出だ、ありがたく頂くとするか。
(……とは言っても、俺の方も余り使いたくは無いんだがなぁ……この武器)

 一方、こちらはマグナム曰く「優しい人達」である名無しcd達のチーム。
「さて……私はそろそろ行くとするかね」
「行ってしまうんですか?」
「ああ、彼女が狙撃手である以上、夜位しか近づくチャンスは無いからね。それに、他の参加者も私と同じ事を考えているかもしれない」
「そうですか……」
 拳銃という武器を持っているヘタ霊と別れるのは痛いが仕方ない。
 彼の目的は学校に居る狙撃手だし、自分が彼女を守らなくてはいけない以上彼についていく訳にはいかない。
 疲労が溜まっているのか、自分の腕の中で未だ目を覚まさないquitを見ながら、改めてそう思う。
「さて……それでは行くとするかね」
 よっこらせ、とヘタ霊は立ち上がる。

 その背を見送りながら、名無しcdは彼に問いかけた。
「一つ、聞かせてくれませんか? 何故、俺達を助けてくれたんです?」
 彼の目的が学校の狙撃手とそのクローンであるなら、別に自分達を助ける必要等ないはずだ。
 その質問に彼は数瞬考え込むと、振り向いて答えた。
「そうだね…まぁ、君たちが殺し合いに乗っている気配が無かったからだろうな。
 私のような人間は少なからず自説を人に話してみたいと思う者なのだよ。
 君たちは丁度いい話し相手だったという訳さ、それに……」
「それに?」
「それに、私は彼女と彼女のクローンを連れて帰って研究したいと思っているのでね。
 詰まる所主催を出し抜いて脱出するしかない訳だ。
 となると、同じ目的を持ちうる人間を死なせるのは得策では無いだろう?」
「は、はぁ……」
 正直、研究だのの所は良く解らなかったが、彼もこの狂ったゲームに乗る気は無い―――という事か。
「それでは、生きていたらまた会おう、名無しcd君」
「はい、できれば……死なないで下さい」
「ふっ……、君もな」
 そういい残し、ヘタ霊は今度こそ闇の中に消えていった。




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