幕間
一定以上の距離を開け、追ってはいたが。
行く手を遮る大小様々な種類の木々が入り乱れて、狙いをつけにくいことこの上ない。
そしてまだ、ここは明るかった。
鬱蒼と繁る大密林ならいざ知らず、こんな島にある雑木林程度ではこんなところにも陽は届く。
木漏れ日の間から暖かい光が彼を包んでいた。
狙い定めた赤いレーザーポインタが太陽の光に隠れ見えなくなる。
感想スレRの142はゆっくりと立ち止まり、遥か前をひた走る男女二人を見送った。
逃したのは相手が手榴弾を持っていて、下手に追うと足元を救われる――という考えも多少はあったが、
心の大半を占める思いは、大体一つだった。
逃げたいならば、逃げればいい。
一段落して、R142は懐から煙草を取り出して火をつけた。
昼の内は極力明るいところでの行動は避けよう、と思っていたのだが。
あの光通らぬ百貨店にあれほど人が集まるというのは正直予想外だった。
まぁ、この島では何があっても大抵のことでは驚かないし、心は非常に落ち着いてはいたが。
今取り逃がした二人が、あの殺人鬼達――あの入り口にいた二人は明らかにお互い進んで殺し合いをしていた――を
助けるといった行動には少々面食らっていた。
あの時――恐らくはあの場になんらかの形で接触してくるだろうと思っていたし、あらゆることを想定して身構えていた。
大体がせいぜいその隙に逃げるだとか、なんらかの武器をもって自分を攻撃する、だと思っていたのだが。
不思議とこういう形で逃がしたことに不快感はなかった。むしろ、そんな生き方を選んだ彼らを素直に賞賛すらしていた。
カチャカチャと再度弾丸を装填しながら、R142はさも可笑しそうに顔を綻ばせた。
元々すべて予定外の出来事なのだ。上手くことが運ばないことに腹を立てる必要などはない。
といっても、ここに『予定』などという言葉は存在しないが。
ここでは常識や倫理などといった俗世界の言葉はすべて水泡に帰す。
もちろんそれらの言葉をここに持ちこむような輩もまたいるだろうが。
まぁ、いろいろと必要なことは百貨店の一戦で大体覚えただろうか。
人を殺すこと、情を殺すこと、時にはそれに囚われないこと。他にもまぁ、いろいろだ。
あとは夜だな。
この銃は暗い所、そして直線的に開けた場所に滅法強いということは身をもって分かった。
短くなった煙草を足で揉み消しながら、もう一度空を見上げた。
――夜の帳が下りるにはまだ少し時間がかかりそうだった。
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