愛より遠し






「いやー、危なかったねぇ」
「まったくだ、ったく…」
 雑木林の中で話し込む七連装ビッグマグナムとシイ原。

 セルゲイを倒した後、シイ原の足の治療をという事になった。
 そして保健室のある学校に向かう道中、ラブラブな雰囲気を辺りに撒き散らしてるカップルを見つけたのがつい数分前。
 どうする、と尋ねたシイ原にマグナム曰く
「ラブラブなのを邪魔しちゃ悪いよ」
「……はいはい、そうですか」
 という事でまるっきりストーカーの尾行を2人は開始した。


 シイ原の目から見ても、二人はもうラブラブだった。
 この殺し合いの行われてる島でそれこそ二人だけ別世界に居るような。
 学校に昼食でも作りに行くのだろう、料理の話で盛り上がっている。
 ハカロワの祐介美汐もかくやというラブっぷりに、逆に自分の境遇を省みる。
(あ〜…、俺もどうせコンビ組むならあんな素直で可憐な美少女と組みたかった…)
 と、自分のパートナーであるマグナムをみやる。

 まぁ、美醜の面では論じるまい。
 肩口で切り揃えた髪に猫を思わせる瞳、それなりに整った顔立ち。
 貧乳ではあるが、それはむしろ萌えるし、体そのものは程よく絞り込まれている。
 恐らく人類の全ての女性を「美」と「醜」に真っ二つに割れば「美」の部類に入るだろう。 
 第一、非の打ち所の無い超美人では返って自分の方が心苦しい。

 運動能力も頭脳も、短時間ではあるが今までつき合った限りでは問題なし。
 変にセンチメンタルになったり悲観的になったりもしない。
 支給品が中華キャノンという事を考えれば、運も強い。
 この状況下でパートナーにするにはほぼ最高の人選と言える。

(……じゃあ何が問題かというと)

 自分が入り込める隙間が無い。
 多分、彼女は自分が死んでも涙一つ流さないのではないか。
 彼女が求めてるのはあくまで戦力としての自分で、心を癒す為の異性ではないのだ。
 まぁ、仮にゲームに乗るとしたら1人しか生き残れないのだ。
 そういう意味では、正しいのは彼女であり、その彼女をパートナーに選んだ自分と言えた。

 だがしかし、こう目の前で見せ付けられると、やはり葉鍵板住人たるもの考え込んでしまうのであった。
(いや、そりゃ冷たい関係だった二人が戦いの中愛に目覚めるって事もあるけどな) 

 それまで自分が生きてるかどうか怪しい…とそこまで考えた時だった。
 前を行く2人の内少女の方が狙撃によって弾き飛ばされるのを見たのは。

 男の方が少女を抱えて逃げた後も2人の相談は続く。
「で、どうする?」
「う〜ん、そうだねぇ…」
 マグナムは額に指を当てしばし瞑目する。
 おちゃらけた雰囲気の下に潜むクールで冷徹な面がかいま見える。

  「どっちにしろ、あそこに陣取られたままじゃまずいでしょ、やるしか無いわね」 
「…ま、確かにな」
「とは言っても今動くのは狙撃して下さいって言ってるような物だし…、襲撃は日が沈んでから。……聞いてる?」
「ああ、聞いてるよ…」
 まぁ、今はこの女に付いていくしか無いだろう。
 死んでしまったらラブラブも何も無いのだから―――と思いつつもシイ原の心は晴れなかった…。



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