古参






林檎は木の陰から叫んだ。
「疲れましたね! 挽歌さん!」
突然の事に、他の二人がうろたえる時間も与えず、挽歌はまるで予知してたかのように即答した。
「感想スレのNG裁判ほどではありませんよ! 林檎さん!」


クローンと日向葵に一言、二言告げると、挽歌は声のした木のほうに歩き、5mほど前で立ち止まった。
「けっこう信用してるんですね?」
「本気ならもう死んでます」
両者は口をゆがめて笑った。ハカロワ感想スレではコテで一、二を争う発言量の二人だ。お互い意識はしてある。
「挽歌さん。僕どうやら精神病らしいです」
そのあっさりとした発言に呼応するかのように、風が二人の間をいたずらに吹く。
「ほう、それは何故?」
「わからないですよ。自分のことを僕と言ったり、俺と言ったり定まらなかったり、意味不明な理由で人、殺しまくったり。さっきも111さんを殺ったし」
最初の理由はともかく、後の理由は挽歌には効いた。こう本人の口から聞かされると少なからず、ショックは受ける。
「……後悔は?」
その問いに、林檎は憎らしいほどの笑顔を浮かべて答える。

「え? なんで? 僕みたいな人気コテに殺されて、彼らは感謝していると思いますよ?」

挽歌は天を仰いだ。

来たのは間違いでしたかね、と心の中で呟きつつ、さらに挽歌は前を向く。
「人気コテですか。どれくらい人気あったんですか?」
いい終わらない内に、待ちわびたかのように答えが返ってくる。

「そうですね。
作品を出せば最低でも1スレ潰れるほどのレスがつきます。
しかも、その内容は賞賛ばかりです。
当たり前でしょう。批判するところなど無いのですから。
もちろん葉鍵系ニュースサイトでは全てがトップで紹介されます。
もはや葉鍵板では本物の神のようです。
そのせいで迂闊に発言できません。
僕の信者たちが感激のあまり林檎さんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
の嵐で流れが止まってしまうからです。
あ、あとスペックスレの連中にも困ったものです。
やめてくれというのに僕を萌えキャラにしたがるんですから。
今度それのオンリーイベントが開かれるそうで、それに来てくれるよう頼まれちゃって」

1分ほど沈黙が続いた。

そして沈黙が破られる。
「で、実際のところは?」
「そうですね。
ハカロワではマナーとにいむらの責任で僕のイメージが壊れました。
あれさえ無ければ人気コテで行けたのに。
スレには出るたび叩かれましたね。僕が何をしたって感じです。
心機一転、最萌では集計プログラムを作ったんですが、完璧に存在を忘れられて、
スタッフロールでは名前も出ません。
ウオッチャーでさえ出てたのに」
今度は沈黙の代わりに二人からすぐに笑い声が起きた。林檎も木から出てきて笑った。
両方とも顔全体を使っての笑い。楽しそうな雰囲気が続く。

一段落ついた後改めて挽歌は尋ねた。

「林檎さん。あなたの本音は一体?」
林檎は真顔で答えた。
「二次元キャラや、あなたみたいな無名コテに殺されたくありません」

いよいよわからなくなってきた。



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