馬鹿2人






 ゆっくりと、物陰から一人の男…感想スレRの142(男・28番)が姿を現す。
 訳あり名無しさんだよもん(男・25番)と名無しさんなんだよ(女・22番)から、ちょうど死角となって見えなかった位置。
 黒いスーツに身を包んだその男は、まるで自分達を冥府に導く死神のようで。
 その手には、鎌の代わりに黒光りする銃が握られていた。

「な…な…あぅっ!」

 タンッ!

 名無しさんなんだよが祐一&浩平の死体の下から這い出ようとした刹那。
 先に動いた彼女に向かって銃弾が放たれる。
 弾丸は彼女の左足、ふくらはぎに命中し、鮮血がしぶいた。
 もし、彼女の位置が死体の下でなければ頭を打ち抜かれていただろう。

「く…くそがっ…ぐおぁっ!!」

 次に、意識が朦朧とした状態からショットガンを構えようとした訳ありの肩にも一発の弾丸を撃ち込む。
 その一撃は、恐らく動脈を貫いたのだろう。
 先に撃った二人より盛大に床を朱に染める。

 3人分の血を吸った床はただただ赤く、まるでペンキをぶちまけたようで。
 男が足を踏み入れて鳴るぬちゃぬちゃという音が、倒れている2人にはその床がさらに多くの血と命を欲しているように聞こえた。

 男は何も語らず、2人に止めを指すべく銃口を向ける。
 目の前の男が、この期に及んで自分達を助けてくれるなんて考えは持ちようが無かった。
 2人は、冥府の門を潜る事を覚悟した。いや、せざるを得なかった。
 男が死神の鎌を振り下ろそうとした瞬間。

「あんた、何やってんだ!!」
 その声にRの142の顔が上がる。
 そこに、荷を一杯に詰めた鞄が投げつけられる。
 それを横っ飛びでかわすと一回転して、声のした方に2連射。
 不安定な姿勢で撃った弾丸は、声の主を捕らえる事なく野菜や果物を弾き飛ばす。
 Rの142がその砕かれた果物の向こうに2人―――いつか(男・10番)とMIU(女・15番)の姿を認める。
 そして、体勢を立て直しまた2発。
 今度は2人が横っ飛びして弾丸をかわす。
「っ…行くわよ!」
 それを合図に、弾かれるように2人は走り出す。
 正面の出口は、Rの142に丁度塞がれている。
 2人が目指すはもう一つの出口である、裏口。
 Rの142は一瞬逡巡すると逃げた2人を追う方を選んだ―――。

「あんた…ホンットーに馬鹿ね!!」
「わ…悪い」
 MIUは走りながらいつかに罵声を飛ばす。
 彼らが1階に辿り着いた時、ショットガンの銃声が連続して響いた。
 一瞬、躊躇して扉を開けると男が少女を押し倒していて、その男の頭が弾き飛ばされた所だった。
 そして黒スーツの男が出てきて―――。

    ここで彼らは、別の選択肢を取る事ができたのだ。
 手元にはまだ手榴弾が残っているのだから、Rの142が2人を殺してから手榴弾を投げ込んでやれば確実に殺せた。
 戦わず逃げるにしても、わざわざ殺人鬼の正面に姿を現す必要等無いのだ。
 しかし、いつかはこの島に置いてもっともやってはいけない事をやった。
 つまりは、自分達を囮にする事で、他の2人の逃げる時間を稼ぐ…という。

   いつかだって、馬鹿げた事だとは解っていた。
 だが、それでも今殺されようとする人間を放って置く事はできなかった。
 自分をかばって死んだのかもしれないRiverの死を思えば、自分が人の命を踏みにじる事はどうしてもできなかったのだ。

「貴方はいいでしょうけど、巻き込まれる私はいい迷惑よ!」
「だから、悪いって言ってるだろ! そもそも、君は別ルートで逃げれば良かったじゃないか!」

 最初は、彼は一人で囮になるつもりだった。
 自分がRの142を引き付けてる間に彼女も逃げるよう言った。
 それなのに彼女は自分の方に付いてきたのだ。

「だから貴方は馬鹿だって言ってるのよ! 武器一つ持たないでどうやって逃げ切る気!? それに…」
 背後から銃弾が風を切る音が聞こえる。
 MIUは手榴弾を一つ取り出すと、後方に向かって放り投げた。

「貴方を見殺しにしたんじゃ、私の寝覚めが良くないでしょ!!」

【名無しさんなんだよ:左足に銃撃を受ける】
【訳あり名無しさんだよもん:右肩に銃撃を受ける、出血多】
【いつか:鞄紛失、セイカクハンテンダケはMIUの鞄の中でも可(次の書き手次第)】



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