丘の上のピラニア






人物探知機のお陰でそれほど苦もなく川の上流にやってきていた。
ピラニアがいた場所だ。探知機に無数の光が点滅し始める。
「あの…一体…」
こうしている間にもゲームは潤滑に進行しているのだ。Kyazは不満そうな顔をした。
「静かに」
Kyazを手で制して辺りを確認する。ピラニアに混じって参加者がいないとも限らない。
幸い誰もいないようだ。幸い、といっても参加者は今20人弱、毎度毎度そうそう会うものでもない。
「どうしてここに来たんですか?」
辺りに人の気配がないことを確認したKyazが、目の前の命に聞いた。
「ここにはピラニア以外誰もいなかったですし。いくら慎重にっていっても…」
「行動する前に一応確認しておこうと思って」

命とKyazには彗夜やL.A.R.、『。』の現在の居場所が分からない。
いくら人物探知機があるとはいえ、その索敵範囲も広くなくかつ誰かを特定など出来ないからだ。
やみくもに動き回ったところで、会える確率より地獄へと行く可能性が高い。
命は結局思案の末、気になっていたピラニアとやらを確認することにした。
死んだらそこでおしまいなのだ。はやる気持ちは押さえて慎重に行こう。
もしも運命というものがあるならば――いつかきっとそこに辿り着けるだろう。

人工のプールの上方に回り込むと、ピラニアが意気揚揚とそこで泳いでいた。
「あー、ピラニアだなぁ。確かに首輪もついてる」
本物の首輪なのかねぇ、と呟きながら、そのプールの横に備え付けられていた奇妙な台に目をやる。
「物騒な内容のスケッチブックだ」
ピラニアさんにはえさを与えないで下さい、と書いてやりたかったが、書くものがない。

持っていた木の棒をプールの中へと入れてみる。
パシャッ、と水面が跳ね、木の棒に喰らいつく一匹のピラニア。
「残念。今の俺は釣り師なんだ」
瞬間を見計らってさっと木の棒を引き上げる。
喰らいついていたピラニアが地上でピチピチと跳ねた。

確かに、こんなプールの中に落ちた書き手は見るも無残な最期を遂げるだろう。
いつか誰かがここに入るかも――ということを少し考えてぞっとした。
しかし、こうなってしまえばピラニアも可愛いもんだ。丘の上に上がったピラニア――魚ほど無力なものはない。
「かわいそうだよ…」
「んー、まぁ、そうかもしれないが。何も取って食おうっつーわけじゃない」
あんましピラニアと戯れる気はない。ピラニアと踊るのは愚の骨頂だ。
「おい、お前、2ちゃんねらーか?」
ピチピチ。地面の上で元気よく跳ねた。
「お前は参加者なのか?」
――ピチピチ。
「お前のその首についている首輪は本物なのか?」
――ピチピチ。
「ピラニアさんに30の質問。当時あなたは書き手についてどう思いましたか?」
――ピチピチ。
「……駄目だ。ピラニアさんには知性が足りない。噛みつくだけしか能がないのかお前は」
気がつけばうわー、と言ったKyazの視線が命に向けられていた。
見れば、Kyazの目の中に四つんばいになって丘の上のお魚に話しかける茜がいた。
「ん?どうしたんだよ」
「…あのー……疲れてませんか?」
「……まだ大丈夫だ」

ペットボトルに水を汲んで、その中に丘の上のピラニアをスルッと入れると蓋を閉じた。
「さ、行くか」
「う、うん」
ペットボトルの中で一匹のピラニアが悠々と泳いでいた。

「そのピラニアどうするの?」
「何かに使えないかな?と思ったんだよ」
「……?」

このピラニアの首輪は自分達と同じように本物なのだろうか?
はずせば大爆発を引き起こすのだろうか?
主催者――国崎らはこの人物探知機と同じように自分達の居場所を確認してるのだろうか。
考えること、られることはいろいろあったが、まぁ何かの役には立つだろう。

人物探知機を覗きこむ。中心には命とKyazとピラニアと。
三つの光点が集まっていた。



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