間の悪い男






 名無しさんなんだよをショットガンから守る為に押し倒した形になった祐一&浩平は思う。
(ああ…何か怪しい目で見られてるぞ? 俺は君を守ったっていうのに)
『まぁな』
『仕方ないな』

   そういえば、昔から自分は間の悪い男であった―――
 徹夜で猛勉強したテストの朝に、長森にならって牛乳を飲んだら腹を壊したり。
 やっとこさ取りつけたデートの日が猪名川よろしく大雨だったり。
 裏葉のごとく買ったPCパーツがことごとく負け組の仲間入りを果たしたり。

(まぁ、こんな島に連れてこられて殺し合いをさせられる時点で、運がいいとは言い難いが…)
『そうだな』
『確かにな』

 まぁ、そんな自分だったから、一目ぼれした少女に自己紹介する時も万全を期そうとずっと機会を伺っていたのだが…。
(結局、こうなってしまうのか…)
『そうだな』
『仕方ないな』

   だが、まだ落胆するのは早い。
 ここから彼女と脱出するのが先だ。
 誤解はそれからでも解ける。
 それから自己紹介、そして2人で愛の逃避行を―――。
「……ん?」
『何だ?』
『どうした?』

 彼女の視線が自分の顔に張り付いている。
 先ほどまでのうさんくさげな視線では無く、何かに心奪われたような瞳。
 ……もしかして、向こうもこちらに一目惚れでもしたのか?
 今まで下降線を辿ってきた自分の運勢の矢印がここに来て上向きにでもなったのだろうか。
 もしそうなら、案外神様も捨てたもんじゃな―――。

 タンッ

 一発の弾丸が祐一&浩平のこめかみを貫いた。
 右から弾丸を受けた頭は大きく左側に弾かれ、ゆらゆらと揺れる。
 そして数秒その状態を続けた後、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

   結局、間の悪い男は最後まで間の悪い男であったのか。
 それともこの島の中で僅かでも幸せな気分になれた事。
 そして苦しまずに逝けたのは彼が最後につかんだ幸運というべきなのか。
 判断すべき当人がこの世に居ない今、それは誰にも解らない。

   今まで口やかましく言葉を返してきた2体の人形は、何も語らず今はもはや動かぬ主人を見つめていた。

【9番 祐一&浩平 死亡    ―――――――残り23人】



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