百貨店−それぞれの思惑
(7階−エスカレーター前)
今まで動いていた監視カメラが止まる。
いつか(男・10番)とMIU(女・15番)は、それを緊張した面持ちで見つめながら会話を交わす。
「…どう思う?」
「僕達の場所を特定できたんで、殺しに来るのかもしれない」
先方の500円玉が切れた…等という想像は当然できない。
もしできたとしたら、それは天才というより変人の部類に入るだろう。
「とにかく、ここは危険ね。早く離れましょう。」
「ああ…」
「どれで行く? このエスカレーター?」
「いや、階段で。狭いエスカレーターやエレベーターだと相手が銃を持ってた場合一巻の終わりだ」
もちろん非常階段も広いとは言い難い。
あくまでまだマシ、程度の物ではあるが。
「後、手榴弾一つ貸してくれないか?」
「…囮に使うの?」
「ああ、僕がこいつを6階に投げたら非常階段までダッシュ。そのまま1階まで降りてここを脱出しよう」
いつかの中にRiverの死体を確認したいという思いは確かにあった。
だが、そんな自分の感情で側に居る女性まで危険に晒す訳にはいかない。
(すまないな、Riverさん。…もし文句があるなら、死んだ後あの世で聞くよ…)
だが、今は彼女と生き延びる事だけを。
MIUが一つ頷くのを確認して、手榴弾のピンを抜きエスカレーターから投げる。
階下で爆発音が響く中、二人は階段に向かって駆け出した。
(2階−婦人服売り場)
「な…なんだよ!?」
2階でRiverの靴を拾って辺りを見回していた(女・29番)は突然の爆発音に耳を塞ぐ。
上階で爆発音。上に誰かが居る!
「だ、誰かと誰かが戦ってるんだよ?」
恐らく、その片方がこの靴の持ち主だろう…と彼女は考えた。
もし、今ので決着が着いたならば、またそうでなくても下に降りてくるかもしれない。
片方の武器は多分爆弾か何か。
黄金聖衣があるとはいえ、流石にまともに戦うのは厳しい。
(…ここは一時撤退なんだよ)
彼女は隠しておいた残りの武器の所に駆け寄ると素早く荷物を整理する。
左手に聖衣の盾、右手に鉈。
残りの聖衣が入った鞄にできるだけの食料と水を詰め込み肩にかけ、もう一つの鞄は諦める。
そして、まだ2Fに残っているエレベーターに入ると、1Fのボタンを押す。
エレベーターを使う危険性については考えなかった。
何故なら敵はまだ上階に居るのだから……。
(2階−階段扉)
「また、エレベーターか……」
『ああ、そうだな』
『みたいだな』
2階に辿り着き、扉を少し開けて目当ての女性を探そうと思った瞬間、爆発音。
その後、彼女は手早く荷物を纏めてエレベーターに乗ってしまった。
また、自己紹介の機会を逸した…と思いつつ祐一&浩平(男・9番)は扉を開け放ち、エレベーターに駆け寄る。
彼女が上に行ったのか下に行ったのかを確認するためだ。
エレベーターは下…1階に向かっていた。
「早く追いつかないとな」
『そうだな』
『それがいいな』
エレベーターはもう使えない。
もう一回2階に呼び寄せ、自分が1階のボタンを押す前に上に居る誰かが呼ぶかもしれないからだ。
そして非常階段をもう一回使うかと扉を開けよう思った時だった。
(……誰かの足音!?)
『みたいだな』
『そうだろうな』
人形の声は無視し、扉に頬を寄せ耳を澄ます。
二人分、上から響いてくる。
間違いなく、先ほどの爆発音の主だろう。
とっさに扉から離れ、他の移動手段を探す。
エスカレーターを見つけるまで数秒。
悠長に降りてる時間は無い、一気に駆け下りる。
自分のまだ口すら聞いた事の無い思い人を守る為に。
(4階−エレベーター前)
感想スレRの142(男・28番)が爆発音を聞いたのは手持ちの硬貨が切れ、用をなさなくなった警備室を出た時だった。
とっさに扉からフロアに入り、物陰に身を隠す。
(…どういう事だ?)
カメラで見た限り7階に居た二人は共闘体勢、殺し合いをしたとは考えにくい。
(じゃあ、囮だろうな)
この時、彼はRiverの策を見破った頭脳で、いつかの考えをも完全に看破した。
彼らが居たエスカレーターから下階のフロアに何らかの爆発物を投げ込み気を引き、その隙に別ルートで下へ逃げる。
エレベーターが上へ来ないという事は恐らく非常階段だろう。
だが、非常階段で彼らを待ち伏せる…という考えは無かった。
彼らの武器の内、一つが今の爆発物だとしても、もう一つが解らない。
それに、比較的見通しのいい非常階段では自分の武器…レーザーポインター付きサイレンサー銃の真価は発揮されない。
そこに関して、いつかの考えは彼の思惑以上に有効だった事になる。
さらに2人が警戒している事も考えれば勝算は薄いだろう。
自分の最終的な目的は殺人ではない、生きて帰る事なのだから。
無理に戦いを挑む必要は無い。
そこまで考えると、エスカレーターの方に向かう。
(できれば、後から入って来た2人と上手い事ぶつかってくれれば理想的だ。残った方の隙を見て撃ち殺す事ができれば…)
その時、窓の外でショットガンの銃声が響いたが、考えに熱中していた彼の耳には入らなかった…
前話
目次
次話