噛み合わない二人
L.A.R.は銃を手に入れた。気絶している「男」の持っていた銃だ。
問題は「男」を起こすか放っておくかだが、彼は彗夜を探しているから遭遇した「男」には残らず声をかけるしかない。
たとえ相手が冒涜としか思えないアホな姿をしていても。
「おいあんた。大丈夫か?」
「いつつ…」
「男」は首筋を抑えながら体を起こす。そしてL.A.R.を見るなり驚いたのだろうか、右手をさっと上げる。
だが、その手には何も持っていなかった。スカートは履いているのに。
「…何やってんだ?」
「いや…なんでも」
右手を上げた「男」の名は、命だ。その右手にあったはずの銃がない。三つ編みのカツラは外れていないのに。
(くそっ。祐一に取られたのか?)
生きていたのはラッキーだが武器を没収されたのは痛すぎる。目の前の男と戦うことになったら、逃げるしかない。
とにかく今は、この男の正体を調べよう、そう思って命は平静を装いながら質問した。
「お前、誰?」
「男」の無礼な言葉に少しむっとしながらL.A.R.は答える。
「そういうあんたは誰なんだ。俺はあんたを黙って殺す事もできたんだぞ」
「ああ…悪いな。俺、殺し合いをする気はさらさらないぞ」
そう答えながら命は両手をひらひらさせる。頼みの銃もないのだから当然だ。ついでにスカーフもひらひらさせたりして。
「…いいから名を名乗れよ」
L.A.Rが凄む。迫力にビビりながらも、命は心のどこかで余裕のない奴だ、と相手を蔑み、答えた。
「…命だよ。俺が一番最初に部屋出たから、知ってるだろ」
この時の命は、この姿で出会ってはいけない相手に、最悪の遭遇を果たしていた事を知らない。
> 「 L . A . R . 」
>何の意味かは分からないがハカロワ読者ならみな知っているコテ。
>多くの秀作を上げたコテ。
>茜好きのコテ。
>そして、数多くの議論中傷と戦ったコテ。
L.A.R.にとって、コテは枷でもあり誇りでもあった。
だから命のように名無しで作品を上げ続け最後に作品をコテ名に変える行為を認めるなど、彼の戦いの歴史が許さない。
まるで似合わない茜コスプレに怒り頂点、爆発寸前なL.A.R.は、殺意を滲ませながら命に指を突きつけ言い放った。
「あんたが命か。俺はな、あんたみたいな奴が嫌いなんだ!」
指を突きつけたまま、彼は叫ぶ。
「命、あんたは汚い!俺が傷だらけになって戦っていたその陰で羽を伸ばしていた!」
しかし命には、そんなL.A.Rの感情の動きを理解できるわけもない。
彼から見れば、LARはいきなりブチ切れたDQNだった。
「な…何怒ってんだよ!わけ分かんねーよ!お前、怪我も何にもしてねーだろ!それに俺が名乗ったんだから名乗れよ!」
負けじと大声で叫ぶ命だったが、L.A.R.はかまわず弾劾を続ける。
「そのくせ最後になってコテを名乗りやがって!どうせ今も俺の崇める茜のふりをして俺を殺そうとしたんだろ!汚い奴め!」
(…待てよ?こいつ、L.A.R.ジャネーノ?)
コテ執着や茜好き発言を聞き、命は真実に行き着いた。
確かにコテを名乗ると叩かれるから面倒だと思っていた。だが最後に色気を出してコテをバラしたのは真実だけに、腰が引ける。
「ちょ、ちょっと待てよ、俺はお前を殺そうなんて思ってないって」
そんな命の譲歩もL.A.R.には届かなかった。
「嘘つけ!さっき上げた右手はなんだ!?人差し指を曲げて引き金を引こうとしてただろ!」
目覚めてすぐに殺気立った顔で睨まれれば誰でもそうするだろうし、とっさに上げてしまったとは言え。図星である。
「いや、それはだな…」
どうにも、うまくない。しどろもどろになりつつも答えようとする命。しかし相手はハカロワ名物、L.A.R.ブチギレモードだ。
こうなると、まとまる話もまとまらない。罵倒の勢いも止まらない。
「その腐った根性が気にくわないんだ!」
「く…なんでそこまで言われにゃ…いや、モチチュケ」
「はっきりしろ、このチキン野郎!!」
命は、L.A.R.を殺してくれと頼まれているし、彗夜に気をつけろと伝えてくれとも言われている。
流石に殺す気なんかなかったが、罵詈雑言を飛ばされているうちに彗夜情報を伝える気もなくなっていた。
「うるせえええええ!お前はL.A.R.をやめてD.Q.N.と名乗りやがれ!」
「なんだと!?俺がDQNなら、あんたは女装の変態だろうが!」
果てしなく口喧嘩が続くと思われたその時。銃声が響き渡った。
「うおっ!」
「ぬうっ!?」
L.A.R.と命は、思い思いの方向へと飛び退る。
二人の間を、祐一が仕掛けたと思われる白い鳩の群れが飛んで行く。
「命!二丁も銃を持ってやがったか!」
L.A.R.は命から奪った銃を乱射し、応戦した。鳩が血に染まり、落ちていく。しかし命は銃など持っていない。
「待てDQN、じゃねえL.A.…うわ、危ね、くそっ!!」
こうなっては逃げるしかない。命はL.A.R.とのコンタクトを諦め、亜麻色の長い髪をなびかせ走って逃げることにした。
「ちっ…弾切れか。命め、危険な男だぜ」
そう言って銃を捨てたブチギレL.A.R.は、かなり危険な男だった。
そんな二人を遠くからじっと見つめる人影がある。
二人に向って銃を打ち込んだ、第3の人物。
一番危険なのは、この人物なのかもしれない。
【命の銃はL.A.R.が弾切れで捨てました】
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