“遥か昔のヘタレ書き手名無しさんだよもん”
「アレ? ドコまで話したっけナァ……う〜ん。仕方無いから最初っから話そっか?」
ざくざく ざくざく
「勇猛果敢な僕がナマイキなガキにお仕置きをしたアト……やっぱり「。」嬢を捜してんだヨ。走っては見回し、走っては見回し。そんな事を繰り返してたら息切れしちゃってねぇ」
ざくざく ざくざく
「で、ちょっと休憩してたら「。」嬢が歩いてるのを見つけたって訳さ。嘘みたいな本当の話。いやぁ、僕の日頃の行いが良かったからネェ。でも、傍らにはなんか邪魔者がいたからさぁ……声を掛けていいものか悩んだんだなぁ……」
ざくっ ざくっ ざくっ
「見失うワケには行かないからさ、一応、アトを尾けてたんだよ。キミ達は気付くハズもないよね。だって、僕の尾行はぱーふぇくとだもん――って、これは話したよね?
そしたらキミがさぁ『普段からストーカーみたいな事してたんでしょ!? この変態野郎っ』って言っちゃってさ。その時に折ったんだっけ? その右腕。ぁあ、違うか、右手には日本刀が刺さってたから、左腕が逝っちゃったのかっ!」
ぐちゃぁ くちゅ くちゃ
「え〜っと、それからぁ……そうそう。それからキミ達が民家に入っちゃったんだよね。僕、焦っちゃたよ〜。どうしたもんかと悩んでさ。ノコノコ家に侵入しても、追い返されちゃうでしょ? まぁ、悩んでても仕方無いからさ。取り合えず、支給品の食料を食べてたんだよ」
くちゃ くちゃ くちゃ
「素っ気無い味だったけどさ――定時放送でマナー(゜Д゜)の名がでた時は笑ったね! 腹抱えて笑っちまったよ! 味気無い食事も気分良く食べれたしねー。あのガキ、お笑いだったぜ。『僕は一人の書き手として彼女を尊敬してるんだ』みたいな事言ってたくせに――
――最後には血の涙流しながら意地張ってさー。負けを認めないってのは見苦しいネェ」
くちゃ くちゃ くちゃ
「でぇー。それから少ししたら「。」嬢がいきなり民家から飛び出してきたんだよっ! びびったね。百貨店みたいな所に向かってたみたいだけど――彼女、セーラー服だったんだよ。流石の僕も見惚れてしまって、少しの間その姿に釘付けだったね!
でもさ……二人で入った民家だったのに今更別行動取るなんて変だよね〜? って事で少しその家を調べようと思ったんだよ。服も着替えなきゃ彼女にシツレイだと思ったしね」
ざくっ ざくざく
「足音出さない様に気を付けて。そしたらキミが毛布なんか被ってお寝んねしてるじゃないかっ! こいつは馬鹿か、と問い詰めたかったけど、今はそんな場合じゃないしね。他の部屋全部見回って着替えてから、キミの処に行ったらキミは上半身を起こしてたじゃないか」
ざくざく ざくざく
「それからはキミの方がよく、知ってるでしょ? 流石に僕には、足が折れる感覚とかナイフで太ももを引き裂かれる痛さとかは判んないしね〜。それでも歯を食いしばって声ださない様に頑張ってたよねっ?
やっぱり「。」嬢についての嘘が利いたのかな? それとも僕みたいな奴の前でそんな無様な真似、出来なかったカナ? 僕とはしては、「。」嬢の行方を知りたかったんだけどな〜。キミの様子からじゃぁ知らないみたいだったし……」
ざくざく ざくざく
「それでも最初は良かったよ。キミに色んな反応があったからさー。目尻に涙溜めて、苦痛に歪んだ顔とかさー。なんかジョーとかセルとかよくわからない単語も時折吐いてたけど――それも遥か昔の話みたいだな〜。
って、もしも〜し? 聞いてますか〜?」
ざくっ ざくっ
「あ〜あ。死んじゃってるよ、この人。確認してみるか」
普段、聞く事のない、鈍い快音が部屋に響く。――不自然に折れ曲がった、首から上の表情は一言で喩えるなら“地獄”だろうか。
「服もま〜た着替えなくちゃなぁ〜。ビショビショだよ」
――目を背けたくなるような、返り血。
「「。」嬢もまたここに戻ってくると思ったんだけどな〜。でもねぇ、愛しい人は走って追いかけなくちゃねぇ〜。キミもそう思うだろ?――って、もう死んでるんだっけ……」
――もう。彼女がその唇を動かして声を出す事など――永く遠い時間を巡っても――有りはしない。
「あ……最初に訊いておく事があったのに忘れてたなぁ〜。僕の事は彗夜だ、って判ってたみたいだから失念しちゃったなぁ……」
服を新しいものに着替えてから日本刀が床に突き刺さっている部屋に戻る。――床に血溜りが広がっていた。
「――で、キミは誰だったんだろうね?」
【27 遥か昔の(略) 死亡】
【残り 25人】
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