CRAZY DANCE Prezent 4U
「あー、ここのことね」
森の奥、忘れられたようにひっそりと佇む建物を命は見上げた。
「……教会、か」
マナーを「見送っ」て以来、命は誰にも会うことがなかった。
そうこうしているうちに昼の放送が入り、L.A.R.の名前がまだ入っていないことに安堵する。
赤目とマナーという今は死者となった二人からL.A.R.と接触するように頼まれていたから、それを果たせないのは寝覚めが悪い。
「休んでいこうかな、少し。歩きすぎだ。
それにもし運命なんてのがあるなら」
――ここに、彼らもやって来るかもしれない――
木製の扉に手をかける。だが力を入れても開く気配がない。
「あ、あれ」
更に力を入れる。結果は変わらなかった。
「えー、ここまで来てそれかよ」
扉に背を預けてその場に座り込む。思えば実に危険な行為だった。
向こう側に誰かが銃を持って潜んでいるかもしれない。
扉ごと命を撃ち抜く可能性だってあった。
命はそのことをすっかり失念していた。
「どうして閉まってるかなあ。俺何か悪いことでもやった?」
やったから、今ここにいるのかと思い至る。
「悪い悪い、今そこは調整中なんだ」
森の奥から声がした。
勢い良く体を起こし、その方向を凝視する。
そう時間もかからぬうちに人影が姿を現した。
「よう」
「お前……」
「お前、誰?」
「クラスメートの名前くらい覚えとけよ。同じクラスの相沢だ」
「知らないっ!」
沈黙。
「私に何か用ですか? 用がないのなら――」
「いや、それはもういい」
「ノリがいいのか悪いのか、どっちなんだ」
命は軽口を叩く。その一方で銃を持つ腕が震えていた。
相手は確かに相沢と名乗った。つまり、管理側の人間だ。
「お前がそんな格好をしてるのが悪い」
言われて思い出す。自分は今、茜の姿をしていた。
「全国の茜ファンから苦情が来るぞ。L.A.R.に見られたら問答無用で殺されるかもな」
「で……管理者様が何の用だ」
「言っただろ、今そこは調整中だ。入れないって教えてやろうと思ってな」
「調整中?」
「そう」
言って祐一はやれやれと続けた。
「なんてことはない。鳩ばらまいたり、全島放送に割り込めるような機材くっつけたり、ほら」
上を見上げる。遅れてそっちを見ると、教会の上部には鐘が備え付けられていた。
「あれが動くようにセットしたり、さ」
「なんでそんなことをする必要がある」
「言われなきゃわからないか?」
一瞬。
ほんの一瞬で祐一の瞳の色が変化した。
雰囲気に呑まれ、命は一歩後退する。
「俺達、ここから随分色々と面白い扱い受けただろ?
これはほら、そのささやかな恩返しって奴だ。
誰かさんがここで戦うことになった時に、いろいろと演出が入った方が面白い」
誰か、それが指す人物は明らかだ。
「何が演出だ。今、こんなロワイアルに巻き込まれたことだって十分演出だろう。
これ以上俺達をおもちゃにするつもりなのか?」
「ハカロワの書き手からそんな言葉が聞けるとは思わなかったけどな」
「くそっ!」
命は銃を祐一に向ける。
「やらせないからな。そうそうお前達の好き勝手にされてたまるか!
あの二人には、少なくともここでは、絶対に戦わせない」
「いいさ、それならそれで。俺達もそんな期待はしてないからな」
「っ! ふざけるなっ!」
引き金に力がこもるその寸前。祐一がリモコンを取り出した。
命は硬直する。――俺は、今、管理者に何をしようとした!?――
「隙があったら、くだらないこと喋ってないで撃っちまえばよかったんだ。
確実に仕留める為に、頭だな。体には防弾ジョッキを着込んでるかもしれない。
一発でできれば理想だ。もう手遅れだけど」
そうだった。
決意表明なんかしないで撃っていればよかったのに。
今も、相手が喋ってる間に引き金を引けばよかったのに。
思った時には遅かった。
「ドン」
首筋に何か――
沈む意識。
準備整ったのか? なら行こうか。
声が聞こえた気がして。
L.A.R.が教会の前で気絶している命を発見したのは、それからきっかり二十分後の話だった。
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