シロー






 そこは、廃校場の前だった。
 木々にかこまれた中にぽっかりと空いたその空間の中央でYELLOWと#4-6は少しの距離を置いて向かい合っていた。
「君は、やり合う意志はあるのか、ないのか?」
 YELLOWは問う。手には廃校場の中に転がっていた配剤が握られていた。#4-6はごくりと唾を飲み込んで、ありませんと答え、両手の手のひらを空にかざして何も武器を持っていないことをアピールする。
 YELLOWはふっと笑みを顔に浮べて言った。
「そうか…。それはよかった。実は俺もな…」
 角材を大きく振りかざし、YELLOWは#4-6に殴りかかった。
 風を切り裂きながら、角材は勢いを早め#4-6に向かっていったのだったが、それは#4-6の頭に当たる寸前の所で止まった。
「…どうやら本当に戦う気がないらしいね。もし銃なんか持ってたら間違いなく今、取り出してるだろうし」
 YELLOWは、小さく笑う。
「…君、名前は?」
「#4-6と言います」
「は、なに? もう一度言ってくれる?」
「#4-6といいます」
「…ごめん、何て読めばいいのかな?」
「シャープヨンカラロクです」
「長すぎ。っていうか読みにくすぎます、それ」
思わずYELLOWは苦笑する。なんだってそんな読みにくい記号のような名前をつけるんだ?
「悪かったですね」
 頬を膨らましながら#4-6は怒る。適当につけたんじゃない、意味はあったんだ。その意味はもうすでに忘れたが、#4-6はその名前に誇りを持っていた。
 しかしそんなことはお構いなく、YELLOWは言った。
「あーそう呼ぶの面倒くさいからさ、今から君のことシローって呼ぶから。いいね?」
 シロー…かよ。ってかなんで人に名前を変えられないといかんのだ。僕はシャープヨンカラロクだ、馬券でもなければシローでもない。
 二人は廃校場の中に入った。そして地面に腰を降ろす。
「遅れたけど、俺の名前はYELLOWだ、よろしく、シロー。いきなりだがお前はここから抜け出す方法があると思うか?」
 YELLOWは唐突に言った。シローと呼ばれるのは気にくわないが、ここは普通に答えておこうと#4-6は考え、思っていることをそのまま口にした。
「そうですね、前回のキャラロワから見ても、最後の一人まで殺し合うと言っておきながら結局は主催者側がやられ、多数逃げることが出来ている。そこから考えるに穴はどこかにあるはずなんです。如何に完璧なシステムだとしても、どこかに」
「俺もそう思ってるんだ。だから出来るだけまともなヤツを集めたい。そうしたら何か間違いなく道は開ける筈だ」
「そうだ、そう言えばYELLOWさんは武器、何持ってるんですか?」
「俺か? 秘密だ」
 結構カッコよく今まで決めてるつもりなんだが、武器を言った瞬間お笑いに変ってしまう。だからYELLOWは隠そうとしたのだが、#4-6は鞄を勝手に漁りはじめた。
「おいっ、何勝手なことしてんだ、シローッ!」
「僕らはもう仲間です、仲間に隠し事は無しですよっ!」
「やめろっ!」
 YELLOWは鞄を無理矢理#4-6から奪い取ろうとする。
 パアアアアアアンッ!
 何かがはじける音が聞こえた。あれは、袋がはじける音だ。
 YELLOWは今、なにもかも、すべてが終わった気がした。
 臭くなるのが嫌なのでYELLOWはとっさに鞄からその破れた袋を放りなげた。
「早くここから出るぞ、シローッ!」
 だんだんとその臭いが廃工場中に充満していく。
(なんでこんなに簡単に袋が破れるんだ? それにこの臭い、普通のチップルの比じゃない)
 廃工場から抜け出した二人は、外の新鮮な空気を吸って自分を取り戻す。
 そして仲間探す為、森の中をゆっくりと、身をかがめながら歩き出した。



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