笑顔の向こう側に
たった今死んだ死体を気にする事もなく、その死んだ男の鞄から水と食料、それから予備マガジンを幾つかと、銃弾を抜き取った。
「これは……ぼくが持っててもいいですよね? 流石にぼくには日本刀を振り回せそうにありませんし……」
下から覗き込む――恐怖や不安。そんな感情が入り混じった――仕草で、お願いする。
相手は思った通りの反応と共に、快諾した。不安の薄れた笑顔を浮かべ、マガジンと銃弾を自分の鞄に詰めていく。
「嬢? 重たそうだね、私が嬢の分も持ってあげようか?」
その遥か昔の(略)(21)の提案に、嬢と呼ばれた「。」(3)はかぶりを振り、健気な笑顔で応える。
「いえ、大丈夫ですよ。それに言ったでしょ? ――ぼくは、絶対に足手まといになりませんから、って」
コルト・ガバメントを右手に持ちながら、左肩に鞄を掛ける。イングラムM11が入っている、その鞄を。
取り合えず、向かう場所は決まっていた。
市街地。民家でも、商店街の様な場所でも、良かった。
おそらくそこにはゲームの参加者が少なからず集まってきていると予想出来ていた。捜し人もいるかも知れない。
勿論、そこに死んでいる様な参加者も居るだろう。
だが、まずは服を調達しなければいけなかった。血濡れの姿で協力者を求められる程――このゲームは穏やかではないハズだから。
二人とも、慎重に進んでいた。人に見つからない様に慎重に。遥か昔の(略)が先頭で、後から「。」が誘導していった。
そして、夜もすっかり明けた頃、ようやく二人は目的地に着けた。幸いにも、何事もなく。
「嬢……よく場所がわかりましたね?」
「実は……スタートしてからここに迷ってきたんです。ほら、あそこに大きい建物――デパートみたいなのがあってアトで役に立つかも、って思って覚えていたんですっ」
「。」が指差す方向にこの簡素な島では少し浮いている、大きい建物が確かにあった。
「その時は恐くて……誰かいるんじゃないかって思って逃げちゃったんですけど……」
僅かに俯く「。」の頭を軽く撫でながら、少し待っててね、と言い残し遥か昔の(略)は近くの民家に近寄っていった。手には日本刀が握られていた。
程なくしてから、遥か昔の(略)が戻ってきた。
「誰もあの家には居ないみたいだったよ」
安心した笑顔を「。」に向ける。「。」も笑顔で返した。
その笑顔を見て遥か昔の(略)は思った――なんて汚れを知らない、純真無垢な娘だろう、と。
「。」が見せた笑顔はそう思わせるには充分過ぎる程の、モノだった。
そして二人は誰も見ていない事を確かめながら――最後に、離れた場所に位置するデパートを一瞥してから――民家に入っていった。
その民家は、一階建ての古めかしい田舎風味な素朴で何処か懐かしさを感じさてくれる家だった。
さして、部屋数も多くなく難なく箪笥を発見し、物色し始める二人。
そして気に入った服があったのか、「。」は着替えてくるついでに顔……とかその、色々拭いてきますね、と気まずそうに言って――鞄を担ぎながら――部屋を出ていった。
その手にはセーラー服が握られていた――。
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