“River”
男子トイレの個室。
今、そこに二人の男女が息をひそめている。
えちぃげーむならハァハァな展開が繰り広げられるのが相場であるが、それも時と場合によるものだろう。
例えば、殺し合いを強制させられている状況下、とか。
「変化ないわねぇ……まぁ、いきなりトイレから調べようなんて流石に思わないわよね」
MIUがそっと呟く。幾分、拍子抜けした様な調子だ。
「……冷静に考えると動かない方が安全だから。このゲームは。森や市街地なんかで歩き回りながらお喋りしてたら、いい標的だよ。“殺してください”って言ってるようなモノさ。後から撃たれたって文句は言えない」
「撃たれて文句なんか言える暇があると思ってんの? 大体、それって三村や川田が言ってた様な事じゃない」
「うっ……でも、確かにそれは有効だよ。殺し合いをしたくないならね。この広い島で誰が何処に居るなんてわかりゃしない。最後に残った二人が“出会えず”に、時間切れであぼーんってのも充分、有り得る話さ」
そう小声で囁きながら、いつかは個室から出ようとする。
「ちょ、ちょっと!? 何してんのあんた? 動かない方が安全なんでしょ?」
「だからって、Riverさんをこのままにしておけない。確かに彼が僕を捜しにこないのは変だけど――それは彼に何かあったからかも知れないし……何より、約束しちまったんだよ。パートナーになる、ってな」
照れくさそうに頬を掻く、いつか。それを聞いたMIUはぼかん、といった感じの顔になったアトに。
「約束……? そんなの七年間も忘れて奴もいるって言うのに、そんなモノの為にわざわざ危険と判っている処に行くって言うの!?」
馬鹿じゃないの? といった感じで言った。心底。彼女はそう思った。
「ハハッ……いや、自分でもこれが馬鹿げた行為って事は、判ってる。解かってるさ。だけどこの生存確率が限りなく低い、このくそったれな幸せゲームで守るモノがあるとすれば――それは」
「それは?」
「それは多分……この先に行けば判ると思うから――だから、僕は彼を捜しに行こうと思うんだ」
例え、その先に死が待っていようとも。と、彼は心の中で付け加えた。
「ったく、呆れ果てて声も出ないわよ……」
軽く溜め息を吐きながらMIUは立ち上がった。
「仕方無いから私も付いて行ってあげるわよ。武器も持たずに死に行くような男を放っておいたら夢見が悪くなっちゃうから。それにあんたの話を聞いてるとそのRiverってやつも案外いい人っぽく――」
――そこまで言ったMIUのひそひそ声は、しかし折原のマイクを通した声音に掻き消された。そして悟るのだろう。今、口にした名の男は既に――死んでいた事に。
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