反転序曲
「どうするの?」
無慈悲に次々と昇ってくるエレベータの階数表示を見ながら、MIUは小声で囁く。
「……River君だといいんだけどね……いや、良くないか」
「だから、ど・う・す・る・っ・て・ぇ・の・っ!?」
落ち着き払ってるいつかの肩をがっくんがっくん掴んで揺らすMIU。
「また気持ち悪くなるからやめてくれ……と、取り敢えずこっち」
「ちょ、ちょっと」
いつかはMIUの腕を掴むと、ふらつく足取りで走り出す。
「誰か上がってくるかわからない以上、無駄な接触はさけましょ。オーケイ?」
「うん。……って、なんで男子トイレに連れ込もうとしてるのよっ!」
ぱかん、いつかの頭を殴る。
「てっ! つか、手榴弾を持った手で殴らないで……暴発したらどうするんだ」
「うるさい、変態っ!」
「身近な隠れ場所ってここしかないじゃないか……それとも、女子トイレの方が良いとでも?
そっちの方が相手が男の場合、心理的盲点をつけるかもしれないけど」
「それはダメ。人として」
「こんな殺し合いで倫理観とか道徳観とかを語るのはちゃんちゃらおかしいと思うけど。
じゃ、だったら早く」
納得のいかない顔で、それでもしぶしぶMIUはいつかの後を追って男子トイレに入った。
二人が身を潜めるか否かというタイミングで、エレベータがチンと音を立てて開いた。
『来たみたいよ』
『だね。……乗ってたかどうかはわからないな。ここからじゃ足音は聞こえないし』
『で、これからどうするのよ?』
『やり過ごせれば御の字』
男子トイレの個室の中で声を潜めて話し合う二人。
『取り敢えず、もうちょっとだけ時間が欲しい』
『なんでよ……』
『さっき寝る前に吐き出したから、もう効き目が切れると思うんだけど……』
『何がよ……?』
『……リアカーに揺られたのは、ある意味天の助けだよね。あれでかなりキたし』
『だから、何がっ?』
今にも噛み付きそうなMIUをどうどう、と押し留めるいつか。
『落ち着いて。気づかれたらマズいだろ?』
その言葉に、ぐ、と言葉を飲み込むMIU。そして小声で呟く。
『あー、ムカつく。気弱なヤツかと思ってたら……何スカした態度とってるのよ』
『そ。失敗だった。繭みたいに良い方向に働くと思ってたんだけどね』
『……?』
『性格が内向的になってしまうし、崖に落ちそうになるし。散々だよ』
『あんた、まさか……』
『仕方ない。やっぱキノコなんかに頼らずに、己の才覚で乗り切れって教訓なのかもね』
いつかはそう言うと、ポケットから何かを取り出してMIUに見せる。
『僕の支給武器がこれだったんだよ。デザートイーグルだったら良かったんだけどね。
やはり、リレーSSのようには上手くいかない』
そこにあったのは、奇妙な色をしたキノコ――セイカクハンテンダケ。
『さて、だいぶ効果も切れたことだし』
いつかはひとつ大きな深呼吸をする。
『まずはこのピンチを乗り切ってみましょうか』
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