Burning Ranger






炎に包まれた雑木林の中。
#3-174は何処へともなく駆け回っていた。
「誰だ! 身を隠すならとりあえず森の中とか最初に書いたやつは!!」
思い返せば、始まりはリーフキャラの突然の自宅訪問。
激しく逃走。激しく電波。激しく拉致。そして激しく生卵。
大体生卵って何だ、せめてゆで卵なら机の上で回しても綺麗に回るのに――。
「って、そんな場合じゃない! 何処のバカだ、火なんて使ったのは!」
ちなみに生卵の大半は、寝かされていた喫茶店の冷蔵庫の中にしまい込んでおいた。
いくつか割ってみても賞味期限の心配はなさそうだったので、長保ちはするだろう。
幸い、卵キャリアー(卵をわれないように持ち歩くためのケース)が同梱されており、
1ダース分の卵だけなら、こうして走り回っても割れることはない。

どうにか火が届いていないところまで来て、彼は足を止めて近くの木に寄りかかる。
「はあ……なんとか脱出できたか」
振り向けば、いまだに轟々と音を立てて燃え上がる木々が遠くに見える。
あと数時間もすれば、この木も綺麗に灰になっていることだろうが。
だが、息を整えるくらいの時間の余裕はある。
「まったく、学校で『自然を大事にしよう』って習わなかったのか……?」
「その意見には、まったくもって自分も同意したい」
突然の、他人の声。
#3-174は慌てて周囲を見渡した……が、人影は見当たらない。
「あー、驚かせたかな。上、上」
視線を上げると、黒ずくめの人影が一人。
太めの木の枝に腰かけて、ひらひらと手など振っている。
かと思うと次の瞬間にはすたっ、と地面に着地した。結構な早業だ。
「ついさっきも、この木の下を誰かが走り抜けて言ったよ。多分あれが放火魔だね」
「なんで止めなかったんですか?」
「あっという間だったし……話が通じるような相手じゃないね、あれは」

黒ずくめのその人物は、かりかりとこめかみを引っかくような仕草を見せる。
厚手のツナギ状のスーツを着込んでいるせいか、体格はよくわからない。
服装だけで言えば、金欠黒魔術士や炎の魔女と見れなくもない。
#3-174は、とりあえずその人物には敵意はなさそうだと判断した。
『やる気』であれば、木の上からの奇襲も出来たであろうから。

「自己紹介してもいいですか? 俺は#3-174です」
「自分は、ハカロワではT.Tで通ってるかな」
とりあえず名前を確認すると、二人は揃って歩き始める。
あのまま立ち話をしていたら、また山火事に巻き込まれかねないからだ。
「放火魔は向こうに行ったから、とりあえずこっちから森を出よ」

歩きながら、T.Tは考える。
さてとりあえず、どこに行こうかと。
(困ったことに、スタート地点にいた人間の容姿をよく覚えていないため、
隣にいる人物がスタート時にはいなかったことに気づいてはいない)

歩きながら、#3-174は考える。
さてこの人は何の話を書いた人だったかと。
(幸いにも隣にいる人物は、作品の過半数がアナザー行きではあったものの、
作中においては誰も殺してはいない)

お互いにそんなことを考えながら、紅く踊り尽きる雑木林を後にする二人であった。



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