そして、幸せな日々を思い出す






崖から落ち、死の境をさまよった蒼天の雨作者こといつか。
彼は、三途の川ことRiverによって一命をとりとめた。
その彼は今――

「か、かはっ…」

死にかけていた。
リヤカーは、揺れた。

このままいつか死亡、でもおもしろい気がしたが、三途の川との距離は縮まらない。
「あ、あの…」
リヤカーを巧みに操る三途の川…もといRiverに声をかける。
「なんスか?目的地はまだですよ。僕に任せて安心していて下さい」
目的地は、君の向こう側な気がしてきた、という言葉をなんとか飲みこむ。
「こ、このままでは…。お願いします、先に…手当て…を」
「うん、目的地に着いた。ほら、ここです…よっ!と」
「ぐはっ!!」
乱暴にリヤカーから振り落とされる。
「ここなら、包帯だろうと車椅子だろうとよりどりみどりですよ」
ジャン!と言わんばかりに、Riverが指差した先は、一つの建物だった。
「ひゃ、百貨店…」
相棒の機転に、そして、その優しさに感動しながらも。
「あんま、車椅子は乗りたくないかな」
体の調子が戻ったら、自分で歩くことを決めた。
相棒の運転=ジェットコースターでよろしく。

「んー、医療用品は何階かな?案内板がないから分からないや」
Riverがエレベーターがやってくるのを待つ。
六階、五階と徐々に点灯ランプが降りてくる。
「エレベーター動いてたのは奇跡的ですね」
いつかは適当に相槌を打った。今はまだ階段は昇りたくない。
「あ、着ましたよ。さあ、2名様ご案内〜」
エレベーター内にいつかを放り込んでから自分も乗り込む。
今度はいつかも呻かなかった。反応は、ちょっとにぶい。
「何階にしようか…まあ、適当に」
「……」
ポチッとな、と七階のボタンを押す。
次に閉ボタンを押そうとした時、ふとRiverの頭に疑問が浮かんだ。
どうしてエレベーターが六階に止まっていたのか。
1階とか、7階とかなら分かるけども、こんな時に中途半端な階に止まったエレベーター。
誰か、使ったのかもしれない。
「いけね。やっぱ出ましょう」
念には念を。石橋は叩いて渡れ。Riverの頭はいつになくフル回転していた。
「やっぱり若い者がエレベーターなんか使っちゃよくないですね。
 ここは根性出して階段昇っていきましょう」
反応は、ない。
「……」
エレベーターが昇っていく。

「いけね、いつかさん中に置いてきちゃった」



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