貧しき乳の戦女神
「ダンディに死なれたのは痛いなぁ。ギャグキャラと一緒だと死なないイメージあるし」
ぶつぶつとメタな事を呻きながら、シイ原は林を歩いていた。
ひとまず、ラジカセ以外の武器が欲しかった。鈍器くらいにはなるだろうが、銃器などの飛び道具には到底敵わない。
「ん……?」
ふと空気に混じる鉄臭に、彼は足を止めた。
「錆……いや、これは、血の匂いだ。まさか」
自然、足が速くなる。そして彼は、その匂いの発信源を見つけた。
「こ、これは――」
「げっ!」
女性の死体だった。さらに正確に言えば、胸元がはだけた死体。
そしてそのすぐ側に、胸をちょんちょん弄る女性がいる。かなり気まずそうに、こちらを見ている。
「な、何やってんだ、アンタ――」
いつでも逃げ出せるように身構えながら、シイ原が言う。
「あ、あのね、これはその――私が殺したわけじゃなくて。なんか、死んでたのよ。
そいで、ついさっき見つけて、ちょっと胸が大きいから見てたら、なんかちょっと触りたくなって――」
(胸――?)
言われ、シイ原は死体の胸に目をやった。確かに大きい。
そして――その胸を触っていた女性の胸を見やる。はっきり言って、貧弱だった。
「その胸の貧しさっぷり――もしや貴女は、あの七連装ビッグマグナム?」
「せめて名札で見分けろー! 確かにそうだけどさー!」
その女性――マグナムは立ち上がって怒鳴ってきた。そしてこちらに歩み寄り、胸元を見やる。
「……アンタだって小さいじゃーん」
「俺男だし」
「まあどーでもいいけど。あんた、シイ原ってのね。どーよ、この大会?」
「どーよも何も、生き延びること優先だ。殺しに来る奴が来れば立ち向かうし、みんなが運営側に牙を剥くってんなら乗らないでもない」
「その場任せってヤツ?」
「『臨機応変』の間違いだ。俺は主義なんか持たないってのが主義でな。そん時一番信じられるもん信じるだけだ」
「ふーん」
マグナムは気の抜けたような表情でこちらを眺め、そして口を開いた。
「じゃあさ、私と組まない? 私も別にぶっちゃけどっちでもいいしね。なんかあんた使えそーだし」
「構わんが、多分やばくなったら裏切ったり逃げたりするぞ俺は」
「そうそう、私もそのつもりだって言い忘れたわ」
さらりと言ってのけ、ニヤリと笑う。
「でで、あんたの武器って何よ?」
「いや……このラジカセだが」
言って、糞の役にも立たないラジカセを掲げて見せる。
「こんなもん貰ってるから」
マグナムが示したのは、それほど大きくない筒状の何かだった。
「……まさかそれは、中華キャノンじゃ」
「そーみたい」
恐らく、ほぼ最強クラスの兵器。強運に護られているのだろう、目の前の女は。
(これはチャンスだ。上手く相互利用しあって、何としても生き延びてやる)
心中そう誓いながら、シイ原はマグナムの後をついて歩き始めた。
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