怖いということ






「銃を…下してください!」
森というにはあまりにお粗末な雑木林に、女性の悲痛な叫びが響き渡った。
「そんなら出て来いや。んなセリフだけで信じられるわけあらへん。誠意みせぃ、ん?」
やせ細った木の幹にもたれかかり、両手でショットガンを構える男。訳あり名無しさんだよもん(男子25番)。
対面する女の姿はない。
「銃を仕舞ってくれないと…さすがに出られないよ…」
「つまりアンタもワシを信用できへんっちゅーことやろ?ワシも同じや。
 見も知らぬアンタにあー、そうやな、なんて心許すワケにいかん」
「そ、そんなこと――」
「油断してズドン!なんてことになったら敵わんわ」
フン、と訳ありは鼻で笑う。
訳ありから死角となる木の向こうから、声だけが答えた。
「それでも…今、ボクらは協力しなきゃ!
 銃を向ける方向は――あの人達じゃなきゃいけないんです!」
あの人達とは無論、往人達のこと。先程からそんな押し問答がずっと続いていた。
「あかん、アンタじゃ話にならん。大体あいつらと戦って勝つ保証がどこにあるっちゅーねん。
 今回はなんとご丁寧に首輪もついとる。解除の方法もない。仮にあっても技術が足りん。歯向かったらそこでアボンや。
 幸い強力な武器も手に入れた。ゲームに乗った方がずっと分がある」
「…たとえゲームに乗って勝ち残って…それで生き残れる保証がどこにあるんです?
 だけど、殺すだけならボクに、ボク達にこんなゲームさせる必要なかったと思う。
 きっと、あのスタロワ、キャラロワなんかよりずっと――限りない、真の恐怖を与えるのが目的なんだと思う。
 それに往人の…あの瞳の向こうに宿ってた憎悪の炎は普通じゃなかった。あの人達は絶対ボク達を殺す気だった。
 最後に勝ち残った人だって、きっと助からない。
 あの人達はゲームに乗って勝ち残ってしまうような人が最も憎いんだと思う。
 一番残酷な方法で――殺されちゃうよ」
一瞬の間のあと、訳ありが口を開いた。
「…ほんならソース出してみぃや。2ちゃんねらーはソースもなしにそんな話信じられん。
 んなことも忘れてまうほど錯乱しとるんか?」
「ぼ、ボクはみんなの為を思って――」
「それや、『みんなの為』。そのセリフが最も信用できん。みなあの残酷なロワを書き続けた猛者どもや。
 アンタのような善人面して近づいてくるロワ書き手が一等怖いわ。みんなの為ちゃう。せめて自分の為、言わな」
「そ、それは――」
「――もう話は終いや。これ以上ここで話しとると騒ぎを聞きつけたマーダーがやってくるかもしれん」
銃身を、スッっと前に向けた。
「ボクが…今から姿を現せば…信用してくれますか?」
「そやな。考える位はしてやってもええな。アンタ――殺ってからな」
「……そんなこと…言われても」
「アンタに出れるワケあらへん。本当に人を信用できんなら――こんな人気のないところで
 誰かの来訪を待つまで潜んでる、なんてことないもんな。バトロワの七原でさえ、入り口で待つ位の根性は見せたで。
 アンタの心の底は、ほんまは疑心暗鬼でいっぱいや」
ショットガンが火を吹いた。大音響と共に木が爆ぜる。
「ボクは――まだあきらめないよ!」
木の影に隠れていた女は、一気にその場を走り抜けた。上手く木々の間をすり抜けてゆく。
さらに何度かショットガンは爆音を轟かせたが、女の足が止まることはなかった。
「チッ、弾切れや。――2ちゃんねらーを無条件に信じれるヤツなんか、この世におらへんのや」
舌打ちしながら、弾を詰めかえる。
「――なんでアイツはワシの隠れてる場所が分かったんや?上手く隠れた思うたのにまた場所かえな」
ブツブツと、それでも迅速にその場から訳ありはそこを発った。もちろん、あの逃げた女とは逆方向に。
「困ったよ…。もう最初の定時放送で何人か死んじゃってる。みんな疑心暗鬼だよ。
 誰も彼もがゲームに乗ってしまってると思いこんでる…」
kyaz(女子22番)は、もうまったく後ろを気にしていなかった。かわりに手元にずっと目線を落としている。
彼女に支給された武器は、もうロワでは定番となっている人間捕捉装置だった。
あんまり性能はよくないみたいだ。誰かまでは特定できない。有効範囲は半径50〜100メートルの間位だろうか。
手の中では、彼女であろう光点のみが中心部で静かに点滅し続けていた。


【22番 kyaz 所持品:人物探知機】
【25番 訳ありななしさんだよもん 所持品:ショットガン】



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