それは突然やってくる






いつだって、人生の転機というやつは突然にやってくる。

その日も、彼はPCに向かい、サイトのの更新作業に明け暮れていた。

1レスロワイアル。

1話1レス、コテ禁止といった数々の制約のためか、
中々書き手が集まらず、現在非常に苦しい状況となっている企画である。
「…まあ、dat落ちしたらしたで楽でいいやね。
 これで結構面倒だからなぁ」
キーボードを叩く手は休めず、彼、#3-174はぽつり、と独りごちた、その時であった。

ぴんぽん。

なんとも間の抜けたチャイムの音が響いた。
「ん?何だよ、また新聞の勧誘か?」
ため息混じりに席を立ち、玄関のドアを開ける。

そこには、フランク長瀬がいた。

「……は?」
呆気にとられている#3-174。暫しの間、沈黙が続いたが、
「こんにちは」
と、フランクの後ろから長瀬祐介が顔を見せた。
「こ、こんにちは」
思わず#3-174も丁寧に挨拶を返す。
祐介だけではなく、よく見ると他にも天野美汐、鹿沼葉子などといった人物が、#3-174を見ている。
その視線は、何の感情も無いようであって、これからの彼の運命を考え冷たく笑っているようであって。
彼の家に集まった人物の共通点。
(……キャラロワで、俺が書いてたキャラだ…)
それが、なんで俺の家を訪問するのだろう。
「早速だけど、ちょっと一緒に来てほしいんだけど」
祐介がにこやかに言う。#3-174はその言葉に悪寒を感じた。
絶対に従ってはいけない、とも思った。
「……どこへ?」
「ちょっと、どこか絶海の孤島まで」
「……何で?」
「分かってると思いますけど…はっきり言ってほしいですか?」
数日前から兆候はあった。葉鍵板からかつてハカロワで執筆していたコテハン達が次々と姿を消していたのだ。
そして突然の葉鍵キャラクター達の訪問。答えは一つしかない。

(逃げるしかない!)
フランクの脇を勢い良くすり抜け、通りに出る。
不意を突かれたのか、祐介達は棒立ちのままだ。
逃げれる。逃げ切れる。#3-174は確信した。だが…
「ぐはぁっ!?」
頭の中を奇妙な感覚が繰り返し繰り返し通り抜けていく。
痛いような、キモチいいような、それは正しく「奇妙な感覚」としか表現し得ないものであった。
(なるほど、これが…電波ってヤツかぁ…)
薄れ行く意識の中で、そんな事を考える#3-174であった。



      「……はッ」
目を覚ます。灯りの灯っていない、暗い部屋の中。
「…俺の部屋?」
夢だったのか、と期待した#3-174だったが、すぐに夢ではないことに気付く。
この部屋には、誰かが生活していた痕跡がまるで無い。
「……マジかよ…」
うなだれる#3-174。その視界の隅に、バッグがひとつ、無造作に置かれていた。
(…支給品か…どうするにせよ中身を確認してからじゃないと……)
持ち上げたカバンはずしりと重く、からからと中で何かがぶつかる音がした。
何が入っているんだ、と疑問に思いつつ、ファスナーを開く。
「……………」
中には、大量の生卵と、「プレゼントです 鹿沼葉子」とだけ書かれた紙切れが1枚、入っていた。


どうすればいいんだ。

【#3-174 No.38としてゲーム参加】



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