ノンフィクション






 大量のぬいぐるみの中で、私、MIUは目覚めた。
 人の気配がないことを確認して私はそこから顔を出す。
 いや、これで誰か言たら笑えないんだけれど。

 ここは百貨店のおもちゃ売り場。
 緊張感がなかったわけじゃないけど、どうしても眠気に耐えられなかった私はここを寝床に決めた。
 窓から朝の光が差し込む。同時に、ロワイアルお馴染み定時放送。
 少々寝ぼけてた頭が急速に醒めていく。
「そっか。本当に殺し合いやってんだね」
 ぬいぐるみの山から這い出て、自分の姿を鏡で見る。
 服は全部、簡素で動き易いもの。全部百貨店の中で調達した。
 あのワンピース気にいってたのになあ。殺し合いには向いてないから仕方ないか。
 なんで私はこんなところにいるんだろう。
 本当は今日は彼と初デートの予定だったのに、なんでこんなことになってるんだろう。
 昨日一日考えたのに答えは出ない。だけど考えずにいられない。
 それはきっと私だけではないはずだ。
 幸福な日常は突如として終わりを告げる。
 いくつものフィクション――ハカロワだってそうだ――を通してそんなことは知っていたはずなのに。
 結局人間は、自分の身に起きたことしか本当にはわからない。
 いや、自分の身に起きたことすら、よく把握していない。
 非現実的だ。信じられない。
 もしかしたら、これもフィクションなんじゃないか。
 私達がハカロワを作ったように、「これ」も誰かの書いたシナリオの中の出来事じゃないのか。

 だけど、それでも私は、ここにいる。

 この建物を見つけて感じたことがある。これは明らかにこの島では浮いた存在だ。ハカロワでもそんなシーンがあった。

 ひょっとしてこの島はハカロワを模して作られたんじゃないか?
 どこかに教会やおかしな施設があるんじゃないか?
 スタロワまで遡って、廃工場とかもあったり……。
 考えるのをやめる。わかってもどうしようもないことだ。
 考えなければならないことは、これからどうするかということ。
 皆はどうしてるんだろう。何か目的を決めて動いてるのか。
 死者が出ている。その中には「マーダー」という種類の人間に殺された人もいるんじゃないか?
 不可解な話だった。私は先のことを何も決められないというのに、もう道を選んだ人がいるんだ。
 いくら考えても具体的な案は出ない。このままじっとしてれば私の知らないうちに何もかも解決したりしないだろうか。
 動かざるをえない状況になるまでじっとしてるのもいいだろう。
 心の中にある、殺されたくはない、という気持ちだけは固いから。
 何度目かになるその結論に達した瞬間、その状況はあっけないほど簡単にやってきた。

 エレベーターが動く。ここは六階。エレベーターは四階を過ぎ――下に動いていく。
 六階で止めたままにしておいたのはまずかった。今更自分のミスを呪っても仕方ないけど。
 三階……二階……一階……少しの時間を置いて、エレベーターは上昇を始めた。
「馬鹿正直にエレベーターで来るか、あれは囮で階段からか。
 ここで立ち向かうか。上に逃げるか、下に逃げるか。下に逃げた場合待ち伏せされたりしてないだろうか。
 そもそもあれが降りてる間に本人は既に階段で七階に移動してるかも……」
 口に出して考えをまとめようとするが、無理だった。現実はこんなにも沢山の選択肢で溢れている。
 汗ばむ手で手榴弾を握り、三階を過ぎるエレエベーターを見送った。



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