魔人形






祐一&浩平(男子9番)は出発地点から見えた森まで走り、一息ついた。
「ハカロワじゃ誰も殺してないがな」
「ここに来る理由はないよな」
「それでも、話は書いたからな」
「ああ、書いたな」
脳内で自分のHNキャラ、祐一と浩平が呟く中、隠れやすそうな所を探し、腰を下ろす。
「確かに殺しちゃいないが、祐一を結花達とは合流させたな」
「ああ、死に場所へのご招待だったな」
「まあ、今さらどうでもいいな」
「ああ、どうでもいいな」
そんな2人の会話を思い浮べながら、その内の1人、浩平から受け取ったバッグを見る。
「もう少し動物組の話し書いて、出てくる順番早めりゃよかったのにな」
「ああ、書くべきだったな」
「もっと早く出て、余裕を持って準備するべきだったな」
「何の準備だ?」
脳の中の浩平が問い掛ける。
「そりゃ、もちろん、遠くまで逃げる準備と、
人を殺す準備だな」
「ああ、武器が必要だな」
「すると、このバッグだな」
自分の行動1つにも2人の会話が必要なのは、もう狂っているからなのかもしれないけれど。

そして、開けたバッグからでてきたのは、
2体の男の人形だった。
そして彼らは、いつも脳の中にいる2人、祐一と浩平の形をしている。
「マジなのか」
思わず呟いたその自分の声が、静かな森に少しだけ響いて、
『わからないな』
『ああ、わからないな』
2つの男の声を呼んだ。驚いて声のした方、自分の手元を見る。
声の主は、その2体の人形だった。
よく見ると、スピーカーがついている。音声に対応するらしい。
「おはよう」
『名雪にしては、早いな』
『瑞佳にしては、遅いな』
他にも対応してそうな言葉で話し掛けてみる。結構出来がいい。
こんなんじゃ、人は殺せないな。そう苦笑する。
服を脱がせてみたい気持ちを押さえ、2体を脇に抱え、そして立ち上がり、前を向く。
まずは、誰かと組むべきなんだろう。この人形で自己紹介になるだろうし。
そう言って、脳の中を狂わせていた祐一と浩平を捨て、人形と共に歩きだす。
「しかしこの人形、俺以外に渡っていたらどうするつもりだったんだ」
『わからないな』
『ああ、わからないな』
「…お前らじゃ、蒼天の雨は望めそうにないな」
『そういうことだな』
『そういうことだ』
静かな森で、何もわからない人形と共に。



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