無題






 最初の犠牲者が出てから数分。
 既に当人たちの運命を左右する武器が入ったバックパックの受け渡しが始まっていた。
「さすがだな。怖くないのか?」
 往人の問いかけにも、その人物――2番、名無したちの挽歌は表情を変えることがない。
 不敵な笑みを浮かべるだけだ。
「……さぁ。どうですかね?」
「ふん。さっさと行け」
 国崎往人は教室を出て行く挽歌を一瞥すると、続けて名簿を読み上げる。
「3番。……これは、何と読むんだ? まる、か?」
「あ、あっ」
「……お前か」
 教室の隅に上がった声。冷たい視線が彼女――3番、。嬢を射抜く。
「は、はい。わ……たし、です」
 それだけ言うのが精一杯だった。足がガクガクと震えている。
 震える身体をぎゅっと自身で抱きしめて押さえるのが精一杯だ。
 そんな。嬢を見て、往人はち、と舌打ちをする。
「もういい。早く出て行け。……それとも、その首輪の説明もしないといけないか?」
 往人がすっとリモコンを持つ手を。嬢の方向へ向ける。
 はじかれたように。嬢は立ち上がる。
そして、涙でくしゃくしゃになった顔を隠そうともせず、走りながらバックパックを受け止める。
その重さによろけながらも、彼女は倒れることなく教室を出て行った。
再び、教室に沈黙が戻る。

 ――悪夢はまだ始まったばかりだった。



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