或る朝のレヴォリューション






 ♪ズンズンパンパンズンパンパン!
 ♪ズンズンパンパンズンパンパン!
アップテンポなビートが、屋上に響き渡る。
支給品であるCDラジカセをぼーっと見つめつつ、シイ原(19番:男)は遠い目をした。
その視線の先には、ラジカセから流れる音に合わせて踊り狂うアフロな姿。
「なんで俺、こんなとこにいるんだよ」
しかも支給品はCDラジカセだし。中に入ってたCDはズンパンだし。
なにやら情けなくて無性に死にたくなった。といって実際死ぬつもりはないが。
そんな彼に、さわやかな声がかけられる。
「HAHAHA、如何しましたシイ原ッさん! 新しい朝ですよ、希望の朝ですよ?」
アフロ男が叫ぶ。つまりその怪しげなダンスはラジオ体操代わりか。
 ♪ズズズンパパンズンパパン!
 ♪ズズズンパパンズンパパン!
テンポが変わるにしたがって、アフロの踊りもいよいよ盛り上がっていく。
……ダンサーといえばアフロとか、最初に言い出したのは誰なのかしら――。
そこまで考えて、シイ原はラジカセの停止スイッチを押した。
「OUCH!」
丁度倒立からのブレイクダンスに移行しようとしていたらしいアフロは、突然の停止に、
バランスとタイミングを失って頭から落下した。
一瞬の間。
「HEY! シイ原ッさん! いきなり何をするですか?!」
むくり、と起き上がってそのアフロ……ダンディ板野(36番:男)はまくし立てた。
遠い目をしたまま、シイ原は抑揚のない声で答えた。
「いや……なんかそろそろ逝っちゃいそうだったから」
「むう、それでは仕方ありませんね」
シイ原自身、よくわからない言い訳だったが、相手はそれで理解したらしい。
支給品だか普段着だか知らないが、純白のスーツを朝日に煌かせ、ダンディは笑った。
「いつも心にSunを! 空にSunがある限り、必ず夜は明けるものです!」
白い歯が眩しかった。
「それで、そちらの支給品は何なんです? こっちの支給品はラジカセでしたが」
「OH、そうでした。日課のダンスをこなすのに夢中で伝えていませんでした」
日課かよ。そう呟きかけて、シイ原は愕然とした。
つまり、その真っ白いにしきのスーツは自前か――!?
戦慄に身を震わせるシイ原の前で、ダンディはゆっくりと懐に手を伸ばした。
緊張が走る。拳銃か!?
その瞬間、突然ダンディが叫ぶ。
「FIGHTォォォォォォォォォ!!」
「い、いっぱぁぁぁぁぁつ!?」
思わず叫び返すシイ原の前で、懐から取り出したドリンク剤をごきゅ、ごきゅと飲むダンディ。

肉体疲労時の栄養補給に。

そんなフレーズが頭に浮かび、シイ原は泣きそうになってしまった。
精神疲労に聞くドリンク剤はないのかなあ。
よりいっそう遠い目をしつつ、ダンディが鞄から次々と取り出すドリンク剤を、
受け取って一気に飲み干すシイ原であった。



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