既視感






いきなり貧乏クジ引いたなー、俺。
人気のない道もとい道なき道を往く。
普通の道を歩いたら危ないからな。この豪華メンツじゃあ、いきなり殺されかねん。
とりあえず、まったく頼りにはならない武器、木の棒は手に持って。
それでも、ああ、やっぱり考えることは同じなのかな。こんな場所でいきなり出くわしてしまった。
命さん命さん、覚悟はできましたか?あなたの名前を彫った棺桶はすでに用意してありますよ。
心の中で黒服がこっちこ〜い、こっちこ〜いと手招きしている。うっさい、だまれ死神。
俺はまだ死にたくねぇーんだっつーの。地獄への片道切符なぞ俺の手に余るシロモンだ。
どっちかってーと手持ち賃金足りないので地獄へはいけませんよ残念ですね。棺桶には切符だけ入れといてくれ。

「どうですか?今の気持ちは?」
「あ、茜…?」
そこに立っていたのはまぎれもなく里村茜だった。ここにいる以上、俺だって葉鍵好きだ。見間違えようはずがない。
「お前も…参加者…な訳ないか。主催者…なのか?」
「そうです。私達の気持ち…分かりますか?殺し合いをさせられ、マーダーにさせられ…そんな私達、そして、私の気持ちが」
「なんとなく、分かる。正直すまなかった」
「口だけではなんとでも言えるものです」
すっ…と茜が目を伏せた。
「でも、私もあなたの気持ち、分かるつもりです。半年前に、経験したんですから…」
「そうか…」
「あなたを助けたい…と思うのはおかしいでしょうか?」
「いや、おかしくなんかないさ」
ノープロブレム、という風にジェスチャーをかます。

あー、俺の武器は木の棒、んで出会い頭に茜。冷たい雨の少女。
オーケイオーケイ、そりゃ死神だって俺を呼ぶよな。でも死神とアイラヴューな関係にはまだなりたくない。

茜がすっ…と近づいてくる。
「じゃあ、行きましょう」
「どこにだい?」
「決まってます――」
シュッ……白銀の一閃が空を薙いだ。
「――地獄に」
それをよけれたのは奇跡、あるいは必然だったのかもしれない。
茜の手が動くよりも早く、俺は右へと上体を流す。銀の刃がその空間を埋めんとばかりに弧を描いた。
全身の毛穴が涌き出る泉のように開き、肌が総毛立つかのような感覚を覚えるも一瞬、
咄嗟に宙を泳いだ茜の腕をとって捻りあげると、彼女の肢体へ茜の手ごと――その刃を突き立てた。
柔らかく泥に沈み込むようなイヤな感触が手に伝わった。
「あっ… ど、どうして…?」
信じられないモノを見るような目をした彼女は、力無くその場に沈みこんだ。
重量ががくんと俺の手にのしかかる。
「…っ!…ごめん。本当にごめん。なんとなく、直感があったんだ」
殺意剥き出しで刃を向けてきた相手にそう言うのもおかしいかな、と思ったけど、とにかく言った。
「だませたと、…思ったのにな」
ズルリ、と茜の上体が気だるそうにゆっくり地面に横たわった。同時に、亜麻色のおさげがその頭を離れて俺の足元に落ちる。
すでに亜麻色の髪は失われ、燃えるような紅の頭髪、その紅の下からはあの忌まわしい参加者の証、首輪が姿を覗かせていた。
「赤目さん…だったのか…」
俺は葉鍵好きなのに思いっきり茜と赤目さんを見間違えてたワケだ。
「だめ、だったね。私、がんばりたかったけど、だめだったね」
茜…いや、茜の格好をしていた赤目さんが弱々しく口を開いた。小さな喀血を伴って。
腹部が、その髪の色よりも赤く染まっていく。一目見ただけで分かった。もう、助からない。
考えるよりも早く、俺は赤目さんの体を抱き起こしていた。
「ヘンだね。私を殺したの、あなたじゃない」
さも可笑しいというように、赤目さんが笑う。
確かに、こんな島で、殺し合った相手とこんな風にしてるのは喜劇だ。

「……私、私達、天罰だったのかな。神の視点から、キャラクター達の命を奪った天罰」
「…どうかな」
俺は、スッ…と、いろいろな形どらせた両手を動かした。
「何、それ?」
「いや、影絵。ちょっとあのクソバカ主催、往人の人形劇を真似てみた。もちろん法術なんて使えないし、
 光もなければスクリーンもないから影絵にもなってないけどな」
「……つまんない」
「…赤目さん。そっか、自分の生き方がつまんなかったか…」
「いや、あなたが」
「……」
「ひとつだけ、お願い聞いてくれる?」
「聞くよ。それを聞いてどうするか、までは分かんないけどな」
だんだん、声がか細くなっていく赤目さんの手をギュッと握った。まだ暖かいのが嬉しくて、そして悲しかった。
「L.A.R.を見つけたら、殺してほしい。私書くのがんばった。がんばったよ。がんばったのに…」
なんとなく、予想はついた。L.A.R.さん、萎え萎え言ってたからなぁ。
「それと、里村茜なりきりセット、もらってほしい。茜として、L.A.R.を殺して欲しい。私の、代わりに」
「え゛そ、それはできるかどうか」
「お願い」
きゅっ、と俺の手を包みこんで、赤目さんは静かに息を引き取った・・・。

「どう、似合う?」
クルッっと一回転。遠心力で紅色のスカートがフワッと風に舞う。
似合わないと思った。俺男だし。まあ、メイド服アイドルタイプよりマシか。
だが、この姿を見て茜、と思ってくれる人は到底いないだろうな。
俺の着てた服は、赤目さんに着せた。いくら仏さんだからって下着姿のまんまにはさせられないし。
いつ欲情して死姦するような輩が現れるか分かったもんじゃない。
まあ、その、俺は服を脱がしはしたけど、まあ、その、赤目さんの今際の願いだったワケで。
律儀だな、俺。でも、L.A.R.さん殺せるか分からないし、とりあえず片方の願いは聞き入れよう。
それが俺の俺なりの贖罪だ。いざとなったら、脱ぐ。どーせトランクスだし。

作り物のお下げを手の平で遊ばせる。本当によくできていた。これが茜の感触か、ちょっといいかも。
「あー、これから俺どうすんだろ?」
一人殺してしまった。だけど、まだ自分の身の振り方なんて決めてない。
ゲームに乗るのか、断固主催と戦うのか。そしてL.A.R.さんを殺すのか。
(――殺せる? 私は……)
とりあえずは、ハカロワ茜を真似てなりきってみた。
やっぱり、あんま似てなかった。

【1番 命 所持品:木の棒、里村茜なりきりセット(装備済み)、ナイフ、荒門の持ち物】
【24番 赤目 死亡】 【残り31人】
(元荒門さんの持ち物が何か、は次の人にお任せ)



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